コラム

睡眠不足で起訴も? 「24時間以上眠っていないと99%の精度で分かる血液検査キット」が開発された

2024年04月08日(月)18時50分

さて、海外でこれほど睡眠不足の運転に対する悪影響が深刻に考えられているのは、居眠り運転が事故の原因の約1/5を占めるという頻度の高さによりますが、実は日本では居眠り運転による事故はそれほど多くはありません。

日本は狭い国土なので、居眠り運転を誘発する長距離の直線道路はそもそも少ないです。さらに高速道路では、車線をはみ出すと「ブーン」という音と振動でドライバーに警告する工夫があったり、長い下り坂や急カーブには速度超過や滑り止めのために道路を横切る薄い塗装があって居眠り運転防止にも役立っていたりするからです。

警察庁交通局によると、令和4年に国内で起きた24061件の死亡・重傷交通事故のうち、飲酒事故で居眠り運転を伴ったものが394件中37件(9.4%)、飲酒事故以外の居眠り運転は286件(1.2%)でした。

また、日本自動車研究所の栗山あずさ氏と大谷亮氏による研究では、2019年の交通事故統計データを分析すると、死亡事故2434件のうち96件(3.9%)、重傷事故24651件のうち283件(1.1%)、軽傷事故316557件のうち1392件(0.4%)が居眠り運転によるものでした。

こうしてみると日本では居眠り運転が原因の交通事故は1%にも満たないように見えますが、交通事故総合分析センターの交通事故統計データは当事者への聴取により作成されるため、前方不注意(わき見運転)に計上されている可能性も高いという先行研究もあるそうです。

さらに、他の事故原因に比べると、居眠り運転による事故では死亡6.9%(他の事故原因では0.7%)、重傷20.3%(同7.1%)、軽傷72.8%(同92.2%)と、重大事故となる可能性が高いといいます。両氏は、「居眠り運転では衝突回避操作が行われないため死亡事故や重傷事故が増えるのではないか」と分析しています。

ドライバーに対する睡眠不足の血液検査は採血が必須であるため、吐いた息で判定できるアルコール検査ほどは手軽には行えません。アンダーソン教授は、研究を発展させて、いずれは唾液や息からも検出できるようにしたいと考えています。

また、居眠り運転が疑われる場合は事故前後の車の挙動も鍵となります。血液検査の結果と問題の車の目撃情報や街頭防犯カメラ映像などをどのようにすり合わせていくか、事故の原因究明の手続きをいかに明確にするかなど、実用化には議論が必要でしょう。

新型コロナウイルス感染症が第5類になってから初めてのゴールデンウィークが近づいています。今年こそは、自動車に乗って家族で遠出をと思っている人も多いかもしれません。睡眠不足での運転へのペナルティは事故を起こさなければ現在はありませんが、疲れたらどこかで仮眠をすればいいと見切り発車せずに、十分な睡眠を取ったうえで安全なドライブをしたいですね。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ関税訴訟、9日にも最高裁判決か 国内外から

ワールド

米国務長官、ベネズエラ民主化と選挙の重要性強調 G

ビジネス

フォード、25年の米新車販売台数は6%増 HVとピ

ワールド

トランプ氏、グリーンランド取得へ選択肢協議 軍活用
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが「手紙配達」をやめた理由
  • 4
    「見ないで!」お風呂に閉じこもる姉妹...警告を無視…
  • 5
    トランプがベネズエラで大幅に書き換えた「モンロー…
  • 6
    「悪夢だ...」バリ島のホテルのトイレで「まさかの事…
  • 7
    若者の17%が就職できない?...中国の最新統計が示し…
  • 8
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 9
    砂漠化率77%...中国の「最新技術」はモンゴルの遊牧…
  • 10
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story