銃弾・爆弾・賄賂の「地獄の配送業」...命がけでガザに食料運ぶ商人たち
7月4日、パレスチナ自治区ガザで輸入業を営むモハメドさんは、「運ぶたびに無理をしている」と、ロイターに語った。写真は5月、ヨルダン川西岸のヘブロンの検問所で、ガザへの入境を待つ民間トラックの車列。食料を運んでいる(2024年 ロイター/Mussa Qawasma)
モハメドさんいわく、その仕事は「地獄の配送業」だ。
パレスチナ自治区ガザで輸入業を営むモハメドさんは、「運ぶたびに無理をしている」と、ロイターに語った。包囲されたガザ地区にトラック1台分の食料を運び込むたびに、急騰する輸送費や仲介業者への賄賂、略奪者に備えた警護費用として1万4000ドル(約225万円)以上も払わねばならない。昨年10月に戦争が始まるまでは、1500ドルから4000ドルで済んでいた。
「ほとんど稼ぎにならない。とはいえ、私も近所の人も食べ物が必要だ。ガザ地区全体が食べるものを必要としている」
モハメドさんは、気は進まないものの、乳製品や果物、鶏肉といった生鮮食品の一部については採算を取るために通常価格の10倍に値上げせざるを得ないという。だが、そうすれば飢えに苦しむ多くのガザ住民には手の届かない価格になってしまうことも分かっている。
ロイターは、モハメドさんの他、17人に話を聞いた。そのほとんどはガザ地区の輸入業者か支援関係者で、物資の供給状況について熟知している。飢餓のリスクが高まっているという支援機関の警告がある一方で、供給システムが混乱しているため、食料を輸入するには危険度もコストも高すぎる状況だという。
取材に応じた人の多くは、フルネームを伏せたいと話した。モハメドさんのような輸入業者は、本名で取材に応じれば、現地の犯罪組織からの報復やイスラエル軍のブラックリストに載る懸念があるという。
取材した人々によれば、食料の輸入に費やされる金額の大部分は、急騰する輸送費に使われる。
イスラエル国内の運転手は、委託費を最大で3倍に引き上げている。ガザに向かうトラックに対してイスラエル人の抗議者からの攻撃があるというのがその理由だ。また、イスラエル占領下にあるヨルダン川西岸地区やケレム・シャローム検問所などの越境地点では、イスラエル兵士による検査を受けて入域許可を得るために何日も待機せざるをえないことも多く、それがさらに輸送コストを押し上げているという。
そして、物資を何とかガザに運び込んだとしても、旅路の最も危険な部分はまさにそこから始まる。
やはり輸入業者であるハムダさんは、野菜のピクルスや鶏肉、乳製品を西岸地区から輸入している。地元の犯罪組織に金を払って見逃してもらうか、武装ガードマンを独自に雇って貨物に張りつかせ、略奪者を撃退しているという。
「これに200ドルから800ドルかかる。1回分の貨物が最高で2万5000ドルになるから、金を払う意味はある」といハムダさん。「雇うのは友人か親戚だ。トラック1台あたりだいたい3─5人は必要になる」
一方、支援組織によると飢餓の状況はガザ北部で一段と厳しいが、民間セクターの物資はまったく搬入できない。取材に応じた輸入業者8人全員が、イスラエル軍がこの地区を封鎖しており、商業用の物資輸送を締め出していると指摘した。
支援関係者2人も、ガザ地区北部で手に入る食料は人道支援によるものだけで、商業用の物資は販売されていないことを確認した。ガザ市及びその郊外を主体とするガザ地区北部で販売用の食料を入手できるかどうか、イスラエル軍はコメントしなかった。
ガザ地区での人道支援の調整を監督するイスラエル軍は、住民全体に行き渡るだけの食料をイスラエルとエジプトから入れさせているとしている。ケレム・シャロームなどの越境地点を経由してガザ地区に運び込まれた後、支援機関による食料の輸送に「困難」が生じていることを軍は認めたが、どのような障害があるか具体的には明らかにしなかった。
広報担当者の1人はロイターに対し、ガザにおける支援物資の配布は「戦闘が進行中の地域なだけに、困難な作業」になっているとした上で、「イスラエルは、一般住民の利益のために人道支援物資のガザ搬入を認めると約束している。現地での作戦上の都合に配慮しつつ、搬入を促進している」と述べた。
イスラエル軍は、ガザを支配するイスラム組織ハマスが「人道目的のインフラを軍事目的に流用」していると主張するが、詳細は明らかにしていない。
ハマスは人道支援の流用を否定し、食料の流通に介入していないとしている。ハマスは、商業関係者が貨物を守るために武装ガードマンを雇っていることを確認しているが、こうした護衛とハマスとのつながりはないと述べている。
「私たちの最大の目標は、人々の苦悩を緩和することだ」と、ハマス行政部門広報官は話した。