最新記事
経済安全保障

地政学的な自立に、中国との貿易関係の恩恵を上回るメリットはあるのか?

SANCTIONS REALLY DON’T WORK

2023年12月19日(火)19時07分
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター研究部長)
中国に制裁を科す前に考えたい

西側は半導体を中国に頼っていなかった(江蘇省の半導体工場) VCG/GETTY IMAGES

<ロシアに対する欧米の制裁は期待したほど効果をあげていない。中国に制裁を科す前に考えたい。我々は中国との通商関係についてコストを踏まえた理性的な議論をできているのか>

イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦争が激化するにつれ、世界の関心はウクライナよりもパレスチナ自治区ガザに移っている。

無理もないが、ウクライナ問題を簡単に忘れてはならない。

ロシアが侵略戦争を始めて間もなく2年になる今、ロシアへの前例のない制裁がそれほど成果を上げていない原因を押さえておくことは極めて重要だ。

おおかたの予想に反して、ロシア経済は制裁によって崩壊などしていない。伸び率は下がったが、成長を続けている。

とにかく輸出品の需要が依然として旺盛で、特に石油と天然ガスは手堅い。欧州諸国が背を向けても、インドや中国などが進んで買っていく。

ただし、輸送が困難な天然ガスには別の事情がある。

ウクライナ侵攻以前、ロシアはEU域内で使われる天然ガスの40%以上を供給していた。

開戦からおよそ半年後の2022年夏には、供給停止という「逆制裁」を試みた。その結果、世界のガス価格は短期間だが急騰し、欧州諸国としてはロシア以外の国との取引が大幅に増した。

だが、欧州経済への影響はそれほど深刻ではなかった。

ドイツでは国内の天然ガスの消費が約20%減ったが、生産高は減らなかった。この強靭さの一因は、エネルギー効率の向上と代替燃料への転換政策の組み合わせが功を奏したことだろう。

しかも、天然ガスの価格は侵攻前の水準に戻った。

ロシアはガス輸出を武器として使おうともくろんだが、欧州向けと想定されていた天然ガスが他国に簡単に売れることはなかった。

「現実的でないシナリオ」のコスト

ロシアに対する欧米の制裁も、ロシアによる対抗策も限られた成果しか得られなかった。

決して驚くことではない。

貿易を武器とする策の結果はまちまちだ。

例えば中国は、オーストラリアへの「経済的威圧」(欧米側が「制裁」の言い換えとして使いたがる言葉だ)で、失敗を重ねている。

しかも国際市場には、大抵の中国製品の代わりがある。

中国がEUや西側に制裁を科そうとしたとき、主要メーカーが中国側に付く可能性は低い。特に半導体について、欧州諸国は主に中国以外から調達している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「非常に生産的」、合意には至らず プーチ

ワールド

プーチン氏との会談は「10点満点」、トランプ大統領

ワールド

中国が台湾巡り行動するとは考えていない=トランプ米

ワールド

アングル:モザンビークの違法採掘、一攫千金の代償は
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 5
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 7
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 8
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 9
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 10
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中