最新記事
北朝鮮

「金正恩の娘」、議会の女性比率18%......北朝鮮で重大な変化が進んでいる

2023年3月6日(月)17時20分
エミリー・チャーリー
金正恩と愛娘のジュエ

愛娘のジュエを連れてICBMを視察する金正恩(日付不明) KCNA-REUTERS

<「愛娘」ジュエが初めて姿を見せ、さまざまな憶測が飛び交っているが、主体思想で献身と自立の重要性を女性に説くこの国で今、何かが変わりつつある>

北朝鮮が2月半ば、ユニークな切手シリーズの図案を公開した。なかでも目を引くのが、不毛の大地に巨大なミサイルがそびえ立つ写真をあしらった1枚。カメラのレンズは、そこから手をつないで離れていく2人の人物に焦点を合わせている。

少女と父親、そしてICBM(大陸間弾道ミサイル)「火星17」。シンプルだが純粋な家族の絆を表現した図案だ。

この切手は金正恩(キム・ジョンウン)総書記の娘が初めて公の場に姿を見せたシーンの1つを捉えたもの。これまで知られていなかった最高指導者の「愛娘」(名前はジュエとみられる)の登場は北朝鮮と世界のメディアに大きく取り上げられた。

ジュエが姿を見せた理由は何なのか。後継者をめぐる論議を含め、さまざまな臆測が飛び交っているが、この秘密主義の体制下で静かに進む重大な変化の潮流に注目すべきだ。

北朝鮮では公的な役割を担う女性が増え、社会の「ジェンダー力学」を書き換えようとしている。金の娘もその変化の一部だ。

公の場で金に同行する姿が目撃された女性親族は、ジュエがその母親と叔母に続き3人目。祖父・金正日(キム・ジョンイル)や曽祖父・金日成(キム・イルソン)の時代にこうしたケースはほとんどなかった。

女性の存在感が増しているのは親族だけではない。金正恩は政府の重要ポストにも女性を起用している。議会(最高人民会議)に占める女性の比率は18%近くを占め、1980年代から知名度の高い女性政治家がいる韓国より1.5ポイント低いだけだ。

金の妹・与正(ヨジョン)は北朝鮮国内でかなりの影響力を持つといわれる。兄の療養中は国政を代行したとされ、現在も政権を代表して発言を続けている。

崔永林(チェ・ヨンリム)元首相の親族に当たる崔善姫(チェ・ソンヒ)は、女性初の外相に就任。米朝関係や核協議で重要な役割を担っている。

ただし、エリート層以外の一般女性にこのような公職に就く機会はほとんどない。大多数の女性は経済、社会、政治の各分野で脇役扱いされているのが実情だ。

建国初期の社会主義理論では、女性の役割は母親や主婦に限定されていた。50年代に女性政策の改革が行われると、女性の家事の社会化が進み、人口増のために女性の出産が大いに称賛された。

北朝鮮独自の国家イデオロギーである主体(チュチェ)思想は、献身と自立の重要性を女性たちに説く。つまり北朝鮮は建国以来、イデオロギーと政策によって男女別の役割を公的に定め、国全体に広めてきた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ紛争は26年に終結、ロシア人の過半数が想

ワールド

米大使召喚は中ロの影響力拡大許す、民主議員がトラン

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中