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ドラマ『リトビネンコ暗殺』が描く、「プーチンの暴走」を許した本当の原点

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2023年1月13日(金)17時30分
木村正人(国際ジャーナリスト)

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『リトビネンコ暗殺』で、リトビネンコの妻マリーナを演じたマルガリータ・レヴィエヴァ (C) ITV Studios Limited All rights reserved.

冷戦時代に英国へ亡命した元ソ連国家保安委員会(KGB)ロンドン支局長オレク・ゴルジエフスキー氏に07年暮れ、単独会見した筆者は「国家が運営する秘密の核研究所からポロニウム210を持ち出すには書類上の手続きが必要だ。核施設は厳重に管理され、プーチンは何が持ち出されたか知っていたはずだ」との証言を引き出している。

この時、ゴルジエフスキー氏は、ポロニウム210を使った"予行演習(1回目の暗殺計画)"が06年10月16日に行われていたことまでロンドン警視庁が突き止めていることを教えてくれた。

当時、捜査内容は厳重に管理され、14年に公聴会が始まるまでわれわれ報道陣にはうかがい知れなかった。それだけに、プーチンの悪事を暴いた刑事たちの闘いを事実に忠実に描いたドラマの意義は大きい。

マリーナさんはドラマについて筆者の取材に応じ、「事件は政治的に動機付けられたものではなく、犯罪でした。彼らは単にサーシャを殺したかったのです。ポロニウム210を使うことで証拠は残らないはずでしたが、逆に犯罪の足跡を残し、公聴会が開かれました。警察が適切な捜査で集めた証拠がロシアとプーチンの犯罪をあぶり出したのです」と語った。

「私はズブの素人で、システムがどう動くのか全く知りませんでした。だから周りの協力を求めました。人を信頼し、いつも最善を尽くしてくれていると信じる必要がありました。刑事さんも最初は私の話を信じるのが難しいようでしたが、次第に本当だと理解したのです。個人に対してポロニウム210を使う事件など前代未聞です」

羊の皮を被り、正体を隠していたプーチン

00年に大統領に就任し、チェチェン制圧に乗り出したプーチンは、露紙ノーバヤ・ガゼータのアンナ・ポリトコフスカヤ記者やリトビネンコ氏の厳しい批判にさらされていた。06年10月、ポリトコフスカヤ記者がモスクワで射殺され、続く11月、リトビネンコ氏が毒殺された。当時のプーチンはまだ米欧の「テロとの戦い」に協力するなど、羊の革を被り、正体を隠していた。

ゴルジエフスキー氏のケースオフィサーだったジョン・スカーレット秘密情報部(MI6)長官はドラマの中で、ロシアを刺激しないよう刑事にブレーキをかけるが、筆者が取材した駐モスクワ英国大使経験者も同じような反応だった。

英政府にとって「招かざる客」だったベレゾフスキー氏がリトビネンコ氏のスポンサーだったことも問題を複雑にする。リトビネンコ氏は「招かざる客」の一味に過ぎない、と。

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『リトビネンコ暗殺』より。プーチンの政敵ベレゾフスキーの存在が事件の様相をより複雑にする (C) ITV Studios Limited All rights reserved.

初動捜査に当たったブレント・ハイアット警部補ら2人の刑事がマリーナさんと病床のリトビネンコ氏の証言に耳を傾けていなかったら、リトビネンコ氏暗殺事件はロシア人亡命者の「不審死」の一つとして片付けられていたに違いない。α線を放出するポロニウム210は「探知不能な暗殺兵器」とロシア側は高を括っていた。

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作品公式ページ『リトビネンコ暗殺』

https://www.star-ch.jp/drama/litvinenko/