最新記事

韓国

バイデンとの関係に苦慮する文在寅政権

2020年11月26日(木)17時00分
佐々木和義

バイデン氏は、文大統領が破棄した日韓慰安婦合意に米副大統領として関わったとみられている...... REUTERS/Kim Hong-Ji/

<米大統領選でバイデン候補が有利と報じられると、青瓦台は動揺した。朴槿恵前大統領とその政策を否定してきた文在寅政権は、オバマ-バイデン周辺に人脈を持っていなかったのだ......>

2020年11月18日、米国議会の下院が米韓同盟を強化する決議案を採択した。米下院は米大統領選で当選したバイデン氏が所属する民主党が過半数を占めている。

韓国青瓦台(大統領府)は、バイデン氏の側近とされる下院議員が提出した同盟強化案の採択を前向きに捉える一方、日韓関係の見直しも迫られることも予想され、バイデン氏との関係に苦慮している、とされる。

トランプ政権とは在韓米軍駐留費の負担が問題になっている

米下院が採択した決議案は米韓同盟の重要性と韓国系米国人の貢献を評価したもの。米韓同盟を民主主義、自由市場経済、人権、法治主義を共有する同盟と規定し、「インド太平洋地域の平和と安全保障の増進に向け、米韓同盟が重要な役割を果たしている」と評価した。また、交渉が行き詰っている在韓米軍駐留費の負担は両国が受け入れ可能な内容で締結すべきだと指摘した。

トランプ米大統領は18年、在韓米軍駐留経費の韓国側の大幅な負担増を韓国政府に要求している。韓国は駐留経費の約2割を負担してきた。しかし、トランプ政権は50%の負担増を要求し、19年1月、前年費8.2%の増額で妥結したが、19年11月には在韓米軍の撤退も辞さない姿勢で増額を要求した。

韓国政府が日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)を破棄すると日本に通告し、 その終了期限が目前に迫った19年11月19日、米国は在韓米軍の駐留費交渉で、韓国側の負担増について、一歩も前進しない状況に業を煮やして交渉は決裂した。その3日後、韓国政府は日韓GSOMIA破棄を取り消して延長すると日本政府に通知した。

韓国はステルス戦闘機F-35を含む軍事兵器を米国から購入し、また米軍が展開するインド洋に韓国軍を派遣する案を提示した。トランプ政権は要求を50%増に引き下げ、韓国は今年3月、前年比13%増を提示したが、トランプ大統領の拒絶で合意に至らなかった。

朴槿恵時代を否定する文在寅政権はバイデン周辺に人脈がなかった

米大統領選でジョー・バイデン候補が有利と報じられると、青瓦台は動揺した。朴槿恵前大統領とその政策を否定してきた文在寅政権は、朴前政権の外交政策に影響を及ぼしたオバマ政権で副大統領を務めたバイデン氏周辺に人脈を持っていなかったのだ。

日本時間の11月8日未明、バイデン候補の当選確実が報じられると、カナダをはじめ、EU各国が祝意をツイートし、日本の菅義偉首相も朝6時半頃、祝意を示すメッセージをツイートしたが、文在寅大統領が祝意を示したのは午前10時半頃だった。

バイデン候補が勝利を宣言し、トランプ大統領が不服を唱えていた11月9日、ポンペイオ国務長官との外相会談で訪米していた康京和(カン・ギョンファ)韓国外交部長官はバイデン氏側との接触を試みた。

康外相は民主党のクリス・クーンズ上院議員と面会し、クリス・マーフィー上院議員とオンラインで会話を交わしたが、バイデン氏陣営は外国との接触を制限しており、中枢人物とは接触できなかった。

康外相が帰国した翌12日、文在寅大統領はバイデン氏と電話会談を行った。文大統領は非核化の原則的な考えを示し、9月の国連総会で提案した朝鮮戦争の終戦宣言には触れないなど慎重だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイランに攻撃か、規模限定的 イランは報

ビジネス

米中堅銀、年内の業績振るわず 利払い増が圧迫=アナ

ビジネス

FRB、現行政策「適切」 物価巡る進展は停滞=シカ

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中