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百田尚樹現象

『日本国紀』は歴史修正主義か? トランプ現象にも通じる本音の乱――特集・百田尚樹現象(3)

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2019年6月27日(木)17時00分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

南京事件(1937年)についても同様である。百田はインタビューに対し、「一部の兵士による殺人はあったかもしれないが、組織的な命令で行った虐殺行為はない」と答えた。

これも歴史学の中心的な考え方とは異なる。南京事件は右派と左派との間で論争が起きている、という理解は正しくない。『「日中歴史共同研究」報告書 第2巻』(勉誠出版、14年)というものがある。

06年、当時の安倍首相と中国の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席により、日中の歴史研究者による共同研究が立ち上がり、近現代史も研究対象となった。この結果をまとめたものだ。

左派的な学者ばかりを集めた研究、という指摘は全く当たらない。日本側の座長は安倍ブレーンの1人、北岡伸一である。この報告書には「南京攻略と南京虐殺事件」という項目が設けられ、中国側だけでなく、日本側の研究者も「日本軍による捕虜、敗残兵、便衣兵、及び一部の市民に対して集団的、個別的虐殺事件が発生し、強姦、略奪や放火も頻発した」と記述している。

しばしば、議論になる犠牲者数も「20万人を上限として、4万人、2万人など様々な推計がされている」と表現している(『「日中歴史共同研究」報告書』より)。

だが、百田にとって最も重要なのは史実的な「正しさ」ではない。百田が繰り返したのは、「正しい歴史」を書いたのではなく、自分での視点で「面白い歴史」を「物語」として書いたということだった。プロの歴史家とは、基本となる考え方そのものが違う。批判がすれ違う理由がここにある。

「僕は反権威主義ですねぇ。一番の権威? 朝日新聞やね。だって1日に数百万部単位で発行されているんですよ。僕の部数や影響力なんてたかが知れている。そこに連なっている知識人とか文化人も含めた朝日的なものが最大の権威だと思う」と百田は語る。

百田史観の売りは、読み物としての「面白さ」と、反朝日、反中韓というスタイルにある。だが、スタイルそのものは百田のオリジナルではない。

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