最新記事

北朝鮮

北朝鮮の刑務所で「消える死体」......金正恩「恩赦」の裏で何が

2018年9月6日(木)13時45分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

この夏、北朝鮮では建国70周年の恩赦が発表されたが KCNA/REUTERS

<北朝鮮では7月に建国70周年の恩赦が発表されたが、家族のもとに「死亡通知書」が送られつけられてくる残酷なケースが多いという>

北朝鮮の最高人民会議常任委員会は7月12日、建国70周年に際して8月1日から大赦(恩赦)を実施することに関する政令を発した。

北朝鮮が大赦を行うのは、日本からの解放と朝鮮労働党の創建から70年となった2015年以来、3年ぶりだ。デイリーNK内部情報筋は7月19日、管理所(政治犯収容所)を除くすべての教化所(刑務所)に収監されている受刑者に対して一律3年の減刑を行うという大赦の内容を伝えたが、これに対する北朝鮮国民の期待は非常に大きかった。

たとえばある受刑者の妻は、デイリーNKに対し次のように語っている。

「今までの7年間、夫を生き延びさせるために食べ物を持って教化所に面会に行ったりしてありとあらゆる苦労をしてきた。あと3年をどうやって耐え抜こうかを悩んでいたところだった。今回のこと(大赦)は夢にも思わなかった」

しかし少なくない人々が、この期待を極めて残酷な形で裏切られ、悲嘆に暮れる結果となっている。

韓国のリバティ・コリア・ポスト(LKP)によれば、受刑者の帰りを待ちわびていた家族のもとに、本人ではなく「死亡通知書」が送りつけられる例が多いのだという。しかも、遺体は家族のもとに戻って来ず、死亡原因についての説明もないままだとのことだ。

死亡原因はもはや想像するしかないわけだが、北朝鮮の刑務所は、きわめて劣悪な環境で知られる。

食事の内容はひどいもので、受刑者は面会を通じて栄養不足を自ら解決しなければならない。家族がいない、または生活状態が厳しくて面会すらない受刑者は慢性的な栄養失調に苦しめられることになる。

受刑者には、囚人服や毛布、靴、歯磨き粉、歯ブラシ、石鹸などの生活用品は支給されず、これも面会を通じて入手したり、受刑者どうしで取り引きしたりしてやりくりせねばならない。

監房は40人から60人が生活できるほどのキャパシティだが、そこに100人以上が詰め込まれることが多い。人が多すぎるために衛生面でも問題があり、特に夏には監房内をたまに消毒しなければならない。そうしないと伝染病の発病原因になる。出所者からは、伝染病で多くの受刑者が死んだ、との証言が多く出ている。また、安全対策の欠落した工事現場での事故や、虐待による死亡もある。

参考記事:金正恩氏の背後に「死亡事故を予感」させる恐怖写真

そのようにして死亡した受刑者の遺体は家族のもとに返されず、裏山などで燃やされ、打ち捨てられてしまうのだ。

あらゆる形の人権侵害が横行する北朝鮮だが、中でも刑務所内部における実態は、我々の想像を絶するものであるのかもしれない。

参考記事:「幹部が遊びながら殺した女性を焼いた」北朝鮮権力層の猟奇的な実態

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英3月製造業PMI低下、中東紛争でコスト急上昇

ワールド

ドンバス撤退でロシア期限通告、ウクライナは「早く決

ビジネス

独主要経済研究所、26・27年成長予測を下方修正 

ワールド

アベノミクスは「かなりの成果」、利上げ方針の論評は
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 5
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 6
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 7
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中