最新記事

観光

「世界最後の日」はマヤの遺跡へどうぞ

メキシコやグアテマラにとって 「世界の終わり」は観光復活のチャンス

2012年7月19日(木)14時40分
ジョン・オーティス

12月まで待てない? 観光客でごった返すメキシコのマヤ遺跡、チチェン・イッツァ(今年3月) Victor Ruiz Garcia-Reuters

 SF作家が家族と共に水没するロサンゼルスを脱出、箱舟に乗り込んだ直後に大津波がエベレスト山をのみ込む──。映画『2012』のワンシーンだ。古代マヤ暦が終わる12年12月21日が世界の終わり、という終末論に触発された映画は大ヒット。最近の世論調査によれば、世界の10人に1人がマヤ暦の終わりは世界の終わりと考えている。

 しかしメキシコとグアテマラにとってはチャンス到来だ。どちらの国も麻薬絡みの暴力が絶えず外国人観光客にそっぽを向かれてきたが、グアテマラとメキシコ、ベリーズにまたがるユカタン半島はマヤ文明の中心地。終末論効果で観光客の増加が見込まれている。「確かに、何かが起きると思って観光客が押し寄せている」とマヤ暦に詳しいシェイ・アダムズは言う。

「終末論を観光客誘致に利用している」と語るのはグアテマラで旅行代理店を経営するジョージ・サンスーシ。12月にはマヤ遺跡ツアーを企画している。「でも本気で信じているわけじゃない。世界が終わるなんて話はもうたくさんだ」

 グアテマラのベテラン旅行業者エリザベス・ベルによれば、12年終末論は外国人の間にマヤブームを巻き起こした。グアテマラの人口の約40%を占めるマヤ先住民は長いこと差別され虐げられてきただけに、世界の注目はなおさら重要だとベルは言う。「自分たちの文化が認められている気がするとマヤの人々は言う。とても重要なことだ。自信につながっている」

 古代マヤ人は天文学と数学の高度な知識を持っていた。月と星の動きを観測して暦を作り、作物の植え付けや儀式の時期を決める際に利用していたと、アダムズは言う。問題の暦は長期暦と呼ばれるもので周期は5125年。紀元前3114年に始まって冬至の12月21日で終わるが、世界の終わりを予言した記録は見つかっていない。

終末論を覆す新発見も

 12月21日という日付が出てくるのはメキシコにあるマヤの碑文だけで、神々が降臨して世界は闇に閉ざされるという解釈もあるとアダムズは言う。とはいえ、この手の終末論は60年代からある。ニューエイジ関連の本やウェブサイトは、マヤ暦の終わりを太陽フレアや太陽の磁極反転に関する予測と関連付けて、世界の終わりが近い証拠だと主張してきた。

 専門家は終末論を一蹴する。実際はマヤ暦は終わるのではなく始めに戻るのであって、12年12月21日は千年紀と千年紀の区切りの日のようなものだという。

 古代マヤ遺跡の保護に取り組む考古学者のメアリー・ルー・リディンガーによれば、古代マヤ人は時間の流れを直線ではなく、過去・現在・未来がDNAの二重らせんのように絡み合っていると考えていた。マヤの創世神話には死に関する記述がなく、「変化と復活と再生だけが描かれている」という。

 5月には終末論を覆す新発見も発表された。米ボストン大学などの考古学チームがグアテマラにあるマヤ文明の遺跡でマヤ暦を発見。解読の結果、12年のはるか先まで続いていることが分かったという。
それでもマヤ暦への関心は強力な呼び水になりつつある。観光客の大部分は、チチェン・イッツァやトゥルムなどメキシコのマヤ遺跡を訪れる見込みだ。メキシコでは巨額の投資のかいあって、11年の外国人観光客は前年より2%増えて約2260万人に達した。

 12月の「その日」をマヤのピラミッドの頂上で迎えたいという観光客も多いらしいが、マヤ暦に詳しいアダムズは逆だ。「マヤ遺跡には近寄りたくない。どこもディズニーランドみたいになるだろうから」

From GlobalPost.com

[2012年6月27日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ436ドル安、CPIや銀行決算受

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 5
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 9
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中