最新記事

ロシア

ソチ五輪開催地の住民が怒るワケ

2010年6月15日(火)12時44分
マリア・アントノバ(モスクワ)

 ロシア政府は国民に対し、14年のソチ冬季五輪の準備は順調に進んでいるとアピールする。だが政府の約束と現実の隔たりが広がるにつれ、国民の五輪への支持は揺らぎ始めた。

 ソチ五輪は政府にとって一大行事だ。しかし国家財政が縮小するなか、約60億ドルという五輪予算が国庫の負担になり始めた。環境保護団体もその場しのぎの開発による自然への影響を懸念する。設備の建設を一手に引き受けるオリンプストロイ社の責任者は、07年から数えて既に2人が辞め、今の3人目も辞意を固めているという。

 政府は楽観的な見方を崩さないが、環境団体は懐疑的だ。昨年末にはソチに建造された新港が吹雪で破壊されたが、世界自然保護基金(WWF)のピョートル・ゴルブネンコ副理事は、これは地域の気候や環境への影響をしっかり調査しなかったせいだと非難する。

 問題は環境だけではない。プーチン首相はスタジアム建設予定地の住民の移転は今年中に「完了する」としたが、地元では反対の声が高まっている。立ち退きの補償額が2年前から二転三転し、「相場価格の50分の1にまで下がった」と住民は嘆く。新しい住居を探すなど不可能な額だ。「ソチが開催地に名乗りを上げた瞬間、国家的な詐欺が始まった」

GlobalPost.com特約)

[2010年6月16日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

再送-インタビュー:ラピダス半導体にIOWN活用も

ビジネス

中国、国有メーカー2車種を初の自動運転レベル3認定

ワールド

インド貿易赤字、11月は縮小 政府高官「米との枠組

ビジネス

日本生命、医療データ分析のMDVにTOB 完全子会
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中