最新記事

アメリカ社会

美しければ出世する(かも)

ハンサムな男性は収入が高く、女性はセクシーな服装が有利──容姿に過剰にこだわる文化がオフィスにもたらした過酷な現実

2010年9月9日(木)12時36分
ジェシカ・ベネット

 いまアメリカで、デブラリー・ロレンザーナ(33)を知らない人はまずいない。ニューヨーク在住のこの女性は09年12月、以前の勤め先である大手銀行シティバンクを訴えた。

 腰からもものラインがくっきり浮き出る膝丈のペンシルスカートに、体に密着するタートルネックのトップス、爪先が開いたオープントウのピンヒール──そんな服装でデスクワークをしていたロレンザーナは、「セクシー過ぎて」同僚たちの仕事の妨げになるという理由で不当に解雇されたと主張。大きな反響を呼んだ(解雇理由はあくまでも業務遂行能力の問題だと、会社側は主張している)。

 その後、ロレンザーナが美容整形に関するテレビのリアリティー番組に出演し、豊胸手術やさまざまな注射などを受けていたことが報じられた。番組での言動は目立ちたがり屋そのもので、シティバンクを訴えたのも売名行為ではないかと疑う声が高まった。

 安っぽい騒動と言えばそのとおり。だが、この件に関して誰もが避けようとしている問題があるように思える。ロレンザーナが容姿を理由に解雇されたのかという以前に、そもそも採用されたのはセクシーな容姿のおかげだったのではないか、という点だ。

 そんな基準で社員を採用する会社ばかりではない。だが、アメリカ社会で容姿重視の風潮が強いことは間違いない。

 ほとんどの場合、美男美女のほうが容姿の劣る男女より好ましい結果を手にするというのは、経済学の世界で昔から指摘されていたことだ。ハンサムな男性はそうでない男性に比べて、収入が平均5%高い。美しい女性は、収入が平均4%高い。容姿のいい男女は先生や上司に目をかけてもらいやすい。赤ん坊でさえ、美しい人を長く見詰めることが知られている。
能力は容姿に勝てない

 アメリカの景気がもっとよく、(美容整形でセクシーボディーを作ったパリス・ヒルトンではなく)化粧っ気のないモデルのケイト・モスが美のシンボルだった20年ほど前なら、この種の統計は皮相的なものと切り捨てられたかもしれない。

 しかし2010年のアメリカでは、美容整形で肉感的な唇を手にしたハイディ・モンタグが雑誌のグラビアを飾り、少女たちの憧れの視線の先にあるのは、雑誌の中のモデルたちの(写真修整済みの)完璧ボディーだ。私たちが昔よりも、美を基準に人間を評価するようになったことを示す調査結果はいくつもある。特に職場では、実力や実績より容姿がものをいう場合が多いようだ。

 テキサス大学オースティン校のダニエル・ハマーメッシュ教授(経済学)の調査によれば、ハンサムな男性はそうでない男性に比べて、生涯を通じて得る収入が25万ドルも多い。全米形成外科学会によると、仕事で有利になるのであれば美容整形を検討したいという女性は全体の13%に上る(本誌の最近の調査によれば、男性も10%が同様の考えを持っている)。

 厳しい経済情勢の下、労働市場はこれまでになく買い手有利になっている。そういう環境で職を得ようと思えば、容姿は単に重要な要素というのではなく、不可欠な要素と言っていい。

 本誌が企業の採用担当の管理職202人を対象に実施した調査では、有能だが容姿がまずい人物は職探しに苦労する可能性が高いと答えた人が全体の57%に上った。履歴書に磨きを掛けるより、「魅力的な容姿」を整えることに時間と金を費やしたほうが就職希望者にとって得策だと指摘する人は59%。女性は職場でボディーラインを強調する服装をしたほうが有利だと考える人は、61%に達した(調査対象者の過半数は男性)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英アンドルー元王子を逮捕 エプスタイン氏巡る不正行

ビジネス

アイルランドの法人税収、多国籍企業3社が約半分占め

ワールド

トルコの和平工程表承認、PKK関係者が「重要な一歩

ビジネス

ラガルドECB総裁、職務に専念と同僚らに伝達 即時
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポーランドが「核武装」に意欲、NATO諸国も米国の核の傘を信用できず
  • 2
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 3
    中道「大敗北」、最大の原因は「高市ブーム」ではなかった...繰り返される、米民主党と同じ過ち
  • 4
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 5
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 6
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 7
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 8
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 9
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 10
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 4
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中