最新記事

金融

焼け太りウォール街に金メッキ時代、再び

2009年10月7日(水)14時56分
ニーアル・ファーガソン(ハーバード大学歴史学教授)

 9月4~5日にロンドンで開かれた20ヵ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも、意味のある成果は1つしかなかった。「業績回復が確か」になり次第、自己資本の増強などを行うようTBTFに呼び掛けたことだ。

 だがこの要求にすら、金融機関は反発している。G20財務相・中央銀行総裁会議の共同声明採択に合わせ、JPモルガンは報告書を発表。G20が提案した金融規制改革を実行すれば、ドイツ銀行やゴールドマン・サックスの投資銀行部門の収益性は最大3分の1低下しかねないと警告した。

 一方、金融機関の報酬体系への批判は問題のすり替えにすぎない。政治家が報酬を問題にしたがるのは、ゴールドマン・サックスのロイド・ブランクファイン会長兼CEO(最高経営責任者)が労働者層の2000倍もの収入を得ていることを知れば、誰もが衝撃を受けるから。とはいえ高額報酬は問題の原因ではなく兆候だ。

 TBTFが巨額の報酬を支払うことができるのは、破綻の心配なしに高いリスクを取り、その高いリターンを総取りできるから。ゴールドマン・サックスが4~6月期決算で純利益34億3500万ドルと最高益を更新したのも、レバレッジを上げ、より高いリスクを冒したからにほかならない。

歴史に学び独占金融資本を解体せよ

 いま必要なのは、金融機関の規制強化をめぐる政治家のリップサービスではない。金融サービス業界に独占禁止法を厳格に適用し、TBTFを一掃することだ。

 とりわけ米政府は、FDICが保護するのは預金口座だけであること、債券保有者は今後保護の対象にならないことを言明する必要がある。言い換えれば、金融機関が破綻した場合、打撃を受けるのは納税者ではなく債権者でなければならないということだ。

 こうした措置が現実化する見込みはあるのか。今のところ、そうは思えない。アメリカでは金融規制改革の機運が低下し、医療保険制度改革に関する論議が白熱している。そんななか、最も活発なロビー活動を展開し、最も多額の政治資金を提供している企業はどこか。TBTFだ。

 だが現状が続けば、金融業界と政治家双方への反発が国民の間に広がる恐れは大きくなる一方だ。歴史を振り返っても、そうした例は1度ならずあった。

 中央銀行的な機能も果たすべく1816年に設立された第2合衆国銀行は、「マネーパワー」を攻撃する政治運動の標的になった。アンドルー・ジャクソン第7代米大統領は再選を懸けた1832年の大統領選で、同銀行に対する有権者の反発を大いに利用した。

 第2合衆国銀行のニコラス・ビドル総裁が1832年、米議会が同銀行に与えた公認の延長を申請すると、ジャクソンは拒否権を発動。4年後に公認期限は切れた。政府の後ろ盾を失った同銀行は1839年10月に支払いを停止。1841年、破綻した。

 TBTFよ、覚悟せよ。現代のジャクソンよ、今こそアメリカはあなたを必要としている。

[2009年9月23日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ減税・歳出法案、下院最終採決へ前進 手続き

ワールド

米EU関税問題、早期解決を メルツ独首相が訴え

ワールド

ロシア、海軍副司令官の死亡を確認 クルスク州で=タ

ワールド

仏航空管制官がスト、旅行シーズンに数百便が欠航
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 10
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中