コラム

ライドシェア制度前進のために、まず論点の整理を

2024年02月21日(水)14時15分
ライドシェア

一般ドライバーが有償で運送サービスを提供する「ライドシェア」が一部解禁される Andrey_Popov/Shutterstock

<世論は賛否に分かれているが、そのほとんどは印象論の議論にとどまっている>

日本政府は、今年4月からのライドシェアの一部解禁を行うとしています。具体的には法改正によるものではなく、道路運送法第78条第3号の「公共の福祉のためやむを得ない場合」が現在起きているという理解から、「地域の自家用車や一般ドライバーによって有償で運送サービスを提供」する許可を行うのだそうです。

このライドシェア問題ですが、世論は賛否両論に分かれているようです。ただ、論点が整理されていない中では、「海外でライドシェアの利便性を経験した人は賛成」「日本ならではの高いサービスや法人が安全を保証することの安心感が手放せない人は反対」という印象論が大勢となっているようです。

 
 

ですが、全国的に人手不足によるタクシーの稼働率の低下が問題になっているのも事実です。一方で、インバウンド需要は非常に強いですし、地方では公共交通の行き詰まりや、高齢者の免許返上の受け皿など新たな需要も増えています。このまま需給のギャップが続けばビジネス上の機会損失になるだけでなく、全国的な交通システムの破綻という形で、国民の生活水準を切り下げる要因にもなりかねません。

そんな中で、現在進められている4月以降の実施案は、「タクシー事業者が主体となり、タクシーが不足する地域、時期、時間帯のみライドシェアを実施する」となっています。これは中途半端な改革で、恒久的な制度になるとは思えません。タクシーというサービスが持続していくためには、何をどう考えていったら良いのか、現時点で論点を整理して行く必要があると思います。

タクシー事業者の「既得権益」に?

まず、タクシー事業者の中にライドシェアへの強い反対論があること、また今回の導入はタクシー事業者が主体になることに対して、ライドシェア推進派からは「既得権益にしがみついている」という悪印象を持たれています。ですが、権益と言っても経営者が豪華な生活をするためにあくどい利益を上げているなどということはないはずです。権益だとか本社の中抜きなどといっても実態は内勤事務の人件費、事務所経費、自動ドアやメーター、無線機などの独自装備の費用など、正当な維持コストで消えていくものが過半であると思います。

そうした維持コストの相当な部分は、DXやライドシェアの高度なアプリで代替できるはずで、既に人手不足が事務部門にまで及んでいることを考えれば、現状を維持すべきものとも思えません。とにかく、タクシー事業者のビジネルモデルと収益構造を明らかにして議論しないと先へ進めないと思います。

今回の制度改正で、ライドシェアの運営についてタクシー事業者が主体となることには、安全の確保が目的ということもあるようです。ですが、近年の自動車は耐久性が向上しています。またメカニズムがより簡素化されたEVも増えています。そのような中で、タクシー事業者が整備の責任を負わなくてはならないのはどうしてなのか、車検や定期点検は実情に合っているのかという自家用車も含めた整備ビジネスの見直しも必要です。

今回の暫定的(?)なライドシェア案では、仮に繁忙期、繁忙な時間帯のみ営業する自家用車を、タクシー事業者が整備するのか、その場合の費用はどう折半するのかなど、安全確保の問題も、もっとガラス張りにしないと先へ進めません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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