コラム

『カールじいさん』 少年の意外なモデル

2010年03月10日(水)11時00分

 アニメーション作品では、初のカンヌ映画祭オープニングを飾り、今年のアカデミー長編アニメ賞を受賞した「カールじいさんの空飛ぶ家」。

主人公カールじいさんと冒険を共にする少年、ラッセルのキャラクター設定には、ある韓国人の幼少期が深く関わっている。 ピクサーの ストーリーボード・アーティスト、ピーター・ソン(31)の話だ。

ラッセルがアジア系として描かれているのも、彼の影響だろう。写真を見るとよく分かるが、ぽっちゃりした童顔で、外見もよく似ている(笑)

 ソンはニューズウィーク韓国版で、こう語っている。「制作初期の段階では、ラッセルのキャラクターはちょっと違っていた。ある日、ピート・ドクター監督が僕に、どんな幼少期だったか、育った街はどんな雰囲気だったかを、根掘り葉掘り聞いてきた。映画の中に自分の幼少期が活かされるなんて、制作期間中、ずっと興奮していた」

 ニューヨークで生まれ育ったソンがアニメーションと関わるようになったのは、母親の影響が強い。

 同誌によると、1970年代に、アメリカへ移住したソンの父親は、青果店を営み、母親は看護師として、昼夜なく働いていた。両親が仕事でいない間、ソンは、弟と絵を描いて退屈を凌いでいたという。そんな母親は、映画狂で、毎週金曜になると、息子2人を連れて映画館へ通った。上映中、分からない言葉が出てくると、幼いソンに意味を聞いていた母親が、ディズニー映画だけは静かに見ていたという。この時ソンは、アニメーションは 老若男女人種を問わず、誰にでも簡単に理解できるジャンルだということを悟った。そして、彼にとって絵を描く事は、ただの退屈凌ぎではなく、夢となり、現実となったのだ。

ファインディング・ニモ」、「インクレディブル」、「WALL・E/ウォーリー」など様々な作品を経て、「レミーのおいしいレストラン」では、声優にも挑戦(レミーの兄:エミールの声を担当)。

 そして昨年、とうとう監督デビューを果たした。「カールじいさん〜」の劇場上映前に流れた短編アニメーション「晴れ、ときどきくもり」(原題:Party Cloudy)が、そうである。

 彼の冒険もまた始まったばかりだ。

──編集部・川崎寿子

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国の新規銀行融資、11月は予想下回る3900億元

ビジネス

仏ルノー、モビライズ部門再編 一部事業撤退・縮小

ビジネス

ECB、大手110行に地政学リスクの検証要請へ

ワールド

香港の高層住宅火災、9カ月以内に独立調査終了=行政
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story