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メイ首相にEUが突きつけた要求

2017年05月15日(月)18時30分

メイは6月の総選挙に勝ち、基盤を強化して交渉に臨むつもりだが…… DYLAN MARTINEZ-REUTERS

<離脱協議でEUが公表した交渉プランは、分担金問題などイギリスにとって厳しい要求がめじろ押し>

イギリスのメイ首相は先月末、EU高官を夕食会に招き、ブレグジット(EU離脱)について意見を交換した。ドイツのフランクフルター・アルゲマイネ紙によると、夕食会の雰囲気はかなり気まずいものだったようだ。欧州委員会のユンケル委員長は、交渉の先行きに「疑念を強めた」という。

離脱交渉のEU側責任者で、この夕食会に出席していたミシェル・バルニエ首席交渉官は先週、EU側の条件や要求を定めた「交渉指令」案を公表した。趣味の登山で学んだ教訓を胸に刻んで離脱協議に臨むと、バルニエは記者団に語った。

「険しい岩場の道なので、一歩ずつ慎重に進む必要がある。事故への注意も必要だ。長い道のりかもしれないので、呼吸とスタミナを保ちながら、頂上を見つめ続けなくてはならない」

この交渉指令案でEU側が強調したポイントは次のとおりだ。

■手切れ金

フィナンシャル・タイムズ紙は交渉指令案の公表後、EUはイギリスに未払いの分担金など、合計1000億ユーロ(約12兆4000億円)の支払いを要求する可能性があると報じた。イギリス政府はこの種の支払いを一切拒否する姿勢を打ち出している。

イギリスはEU加盟国として、既に20年までの予算の分担金支払いを約束している。「私には『罰金』や『離脱請求書』などと呼ばれる理由が分からない」と、バルニエは言った。「既に約束したのだから、その責任を果たさなければならない」

交渉指令案には、具体的な数字は書かれていないが、EU側が主張する計算方法は明快だ。イギリスはEUのあらゆる事業やプロジェクトに拠出を約束した金額を全て支払わなくてはならないと、バルニエは言った。ブレグジット関連の「固有のコストも全額負担すべきだ」と、EU側は主張している。

■市民の権利

イギリス在住のEU市民とEU圏在住のイギリス国民の地位と権利は、離脱協議で最初に扱われるテーマの1つだ。交渉指令案は、現時点でイギリスに住むEU市民とEU圏に暮らすイギリス国民だけでなく、ブレグジット後に合流する家族にも市民としての権利を保障すべきだと主張している(社会保障の受給権や、移動や労働の自由の権利も含む)。

移民はイギリスにとって最も敏感な政治問題であり、EU側の主張はかなりの物議を醸す可能性がある。

■権限

EUの最高裁判所に相当する欧州司法裁判所は、EU官僚支配のシンボルとしてイギリスの「欧州懐疑派」から毛嫌いされている。メイはEU離脱によって、イギリスはもはや同裁判所の判決に縛られることはないと強調していた。

だが交渉指令案は、EU離脱協議の合意事項の法的解釈と、離脱後もEUの法規が適用される分野については、欧州司法裁判所の管轄とすべきだと主張している。離脱後もイギリス在住のEU市民の権利を守る役割は同裁判所が担うというEU側の主張は、特に大きな論議を呼びそうだ。


交渉指令案はイギリスにとってかなり厳しい内容だが、バルニエは迅速で円滑な交渉を通じ、双方が受け入れ可能な合意を目指して全力を尽くすと明言した。「イギリスと(その他のEU加盟国)27カ国の間に、ブレグジット後もずっと続く友好的取り決めを結べることを願う」

ジョシュ・ロウ

[2017年5月16日号掲載]

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