ニュース速報

ワールド

アングル:経済危機のスリランカ、タミル人は内戦直後並みの貧困

2022年09月23日(金)07時53分

 経済危機に陥っているスリランカで、少数民族タミル人のシンガラム・スーサイヤムスさん(44)は炎天下、借りているピーナツ畑の手入れにいそしんでいた。インフレで多くの生活必需品に手が届かなくなり、大地に鋤(すき)を打ちつけて生活苦と闘う毎日だ。北部の沿岸地域ムライティブで8月13日撮影(2022年 ロイター/Joseph Campbell)

[ムライティブ(スリランカ) 16日 ロイター] - スリランカの少数民族タミル人、シンガラム・スーサイヤムスさん(44)は炎天下、借りているピーナツ畑の手入れにいそしんでいた。インフレで多くの生活必需品に手が届かなくなり、大地に鋤(すき)を打ちつけて生活苦と闘う毎日だ。

「私は日雇い労働者よりも多くの困難を抱えている」と語るスーサイヤムスさんは、手のひらで体を支えて動き回っている。スリランカ政府と武装集団「タミル・イスラーム解放のトラ(LTTE)」による26年に及ぶ内戦末期の2009年、空襲で両脚を失い左腕も負傷したのだ。

スーサイヤムスさんが暮らす北部の沿岸地域ムライティブにとって、現在の経済危機は内戦末期の攻撃に続く2度目の大打撃をもたらしている。当時はこの地域の大半のタミル人が損害を被った。

多くの住民は日雇い労働で日々をしのいでいるが、自分にはできないとスーサイヤムスさんは言う。

「日雇い労働に申し込んだとしても、誰も私を雇ってくれないだろう。こんな状態で働けるだろうか」

経済危機に襲われる前、スーサイヤムスさんは漁師をしていた。しかし過去70年で最悪の危機で燃料が途絶え、ピーナツ農業に転じざるを得なくなった。

「自分はなんとか空腹に耐えるしかないとしても、子どもたちに『ほら、これしか食べるものは無いのだから、もう寝なさい』などと言えるだろうか」と嘆く。

国連食糧農業機関(FAO)の調べによると、スリランカでは約620万人が食料不足に陥っている。食品インフレが激しく、8月は93.7%に達したからだ。

スリランカ国民約2200万人はここ数カ月、停電、高インフレ、通貨ルピーの急落、外貨不足に苦しみ、食品、燃料、医薬品の輸入代金を払うのが困難になっている。

ムライティブはスリランカで2番目に貧しい地域だ。国際援助団体、セーブ・ザ・チルドレンが6月に実施した調査では、同地域の世帯の58%は貧困状態にあり、危機で全収入を失ったと答えた人の数は全国で最も多く、住民のおよそ4分の1を占めた。

全国で見ると成人の31%が、スーサイヤムスさんのように子どもを養うために食事の量を減らしたと答えた。

この地域の人々を支援している慈善団体ティアーズ・オブ・バンニの創設者、ソマ・ソマナサン氏(シドニー在住)は「この経済危機で、彼らは悪い方へ悪い方へと追いやられている」と話す。「内戦直後の状態に戻ったのも同然だ」という。

社会的エンパワーメント省のニール・ハプヒンネ担当相は、400万世帯を対象としている福祉措置を、経済危機で最も大きな打撃を被った世帯にも広げるとともに、毎月の直接現金給付の対象を60万人増やす計画を明らかにした。

今年はこれまでに320万世帯に513億ルピー(1億4600万ドル、210億円)を支給している。

アジア開発銀行(ADB)からの融資2億ドルも、食料危機の緩和に充てられる。政府は世界銀行や国連機関にも支援を仰いでいる。

夕暮れが訪れ、1日の労働を終えたスーサイヤムスさんは鋤を置いた。ピーナツ収穫の成否が分かるのは2カ月先だ。「物価が下がれば、これほど苦労はしないのに」とつらさを口にした。

(JEEVAN RAVINDRAN記者)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU首脳、ウクライナ財政支援で合意 ロシア資産の活

ビジネス

全国コアCPI、9月は+2.9%に加速 電気・ガス

ビジネス

米失業保険申請件数、先週は増加 給付受領も増加=エ

ワールド

ベネズエラ麻薬組織への地上攻撃、トランプ氏が改めて
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 4
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中