ニュース速報

ワールド

アングル:失われるLGBT+の生命線、関連サイトに弾圧

2021年09月06日(月)14時58分

 8月31日、 ロシアが各都市で性的少数者によるパレード「プライド・マーチ」を禁止し始めると、「ロシアLGBTネットワーク」のミヒャイル・ツマソフさんはインターネットで情報発信を続けようと考えた。写真は2019年8月、ロシア・サンクトペテルブルクで行われたLGBTQの集会を警備する露当局者(2021年 ロイター/Anton Vaganov)

[ロンドン 31日 トムソンロイター財団] - ロシアが各都市で性的少数者によるパレード「プライド・マーチ」を禁止し始めると、「ロシアLGBTネットワーク」のミヒャイル・ツマソフさんはインターネットで情報発信を続けようと考えた。しかし、ロシアの当局はこの動きにすぐ追い付いた。

ツマソフさんによると、ロシアのネット規制当局はこの団体のサイトを何度も閉鎖しようと試みた。当局が盾に取ったのは、2013年に成立した「反ゲイ・プロパガンダ」法。LGBT+(性的少数者)に関する情報が子どもに広がることを禁じている。

団体は法廷に異議を申し立て、今のところ成功している。ツマソフさんはトムソンロイター財団の電話取材に、「従ってわれわれのウェブサイトはまだ残っており、社会におけるわれわれの居場所も維持されている。しかし、誰もがこのように成功しているわけではない」と語った。

3つの人権団体が今週、世界の状況をまとめた報告書を公表した。それによると、2016年半ばから20年半ばにかけ、ロシアでは32のLGBT+のサイトがプロバイダー上で1回以上アクセスできなくなった。

「アウトライト・アクション・インターナショナル」、「トロント大学市民ラボ」、「ネットワーク干渉オープン監視団(OONI)」の3団体がまとめた同報告書は、「最も頻繁にアクセスできなくなるのはLGBTIQ関連のニュースサイトで、次いで文化、人権関連のサイトだ」としている。

ロシアでは同性間の交際関係は合法だが、性的区別や性同一性に対する姿勢は今でもおおむね保守的だ。

同国は2020年の国民投票により、異性間の結婚しか認めない憲法改正が承認された。これにより、同性婚を支持する法律を将来制定する道は事実上閉ざされた。

トロント大学市民ラボの調査幹部、イレーネ・ポエトラント氏は、「政府はさまざまな方法でLGBTIQのウェブサイトをふるいにかける。法的手段と技術的手段を用いるのが典型的だ」と話した。

<「国家安全保障上の危険」>

報告書はロシアのほか、インドネシア、マレーシア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)に焦点を当てている。ポエトラント氏によると、これら6カ国を選んだのは、LGBT+関連のコンテンツを監視していることが分かっている国々だからだ。

報告書によると、こうしたサイトを禁じることは、「市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)」の第19条に違反している。インドネシア、イラン、ロシアの3カ国はICCPRの署名国だ。

ICCPRは「すべての者は、表現の自由についての権利を有する。(中略)国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む」と定めている。

報告書によると、6カ国のうちLGBT+関連のサイトにアクセスできないようにした件数が最も多かったのはイラン(75件)で、次いでUAE(51件)だった。

インドネシア政府は5年前、LGBT+のサイト禁止に動くと表明。報告書によると、現在少なくとも38のサイトが閲覧できない。

「LGBTIQコミュニティは政府から、国家安全保障にとって危険であり、社会を織り成す倫理的結束を脅かすものとして位置づけられている」と、リニ・ズーリアさんは電子メールでロイターにコメントした。リニ・ズーリアさんはインドネシアにあるLGBT+の団体で活動している。

ロシアのツマソフさんは、LGBT+の人たちにとってインターネットは欠かせない社会的な生命線になっており、その弾圧は差別と人権無視を反映していると語る。「LGBTIコミュニティの言論の自由は、同性愛を嫌悪する人たちからの多大な脅威に苦しんでいる」と、ツマソフさんは話す。

(Hugo Greenhalgh記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送-米財務長官、トランプ関税を擁護 最高裁の合憲

ビジネス

ECBレーン専務理事、インフレ低下予想に疑問 最近

ワールド

ベセント財務長官、来年の米経済を楽観 利下げの必要

ワールド

トランプ氏2期目は「自国に悪影響」、日豪印で過半数
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 9
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中