ニュース速報

ワールド

焦点:米が半導体巡りオランダに圧力、中国への技術流出を阻止 

2020年01月15日(水)09時02分

1月6日、トランプ政権は、オランダの半導体製造技術が中国に輸出されるのを阻止するため、広範囲な働きかけを強めている。写真は半導体製造機器メーカーASMLリソグラフィ(露光装置)内部。ASML提供(2020年 ロイター)

[ワシントン/アムステルダム/サンフランシスコ 6日 ロイター] - トランプ政権は、オランダの半導体製造技術が中国に輸出されるのを阻止するため、広範囲な働きかけを強めている。関係筋がロイターに語ったところでは、ポンペオ米国務長官がオランダ政府に働きかけ、米政府当局者はオランダ首相に機密扱いの情報機関報告書を開示したという。

こうしたハイレベルでの働きかけについて、これまで報道されてこなかったが、世界最速レベルの半導体製造に必要な機器が、中国の手に渡るのを防ぐことに米国政府がどれだけ力を入れているかを示している。同時に、中国への先進的テクノロジー流出防止という、米国政府がほぼ単独で進める企てが直面する困難も見て取れる。

こうした米国の働きかけが始まったのは2018年だ。事情に詳しい2人の関係者によると、露光装置と呼ばれる半導体製造に必須のプロセスにおける世界トップクラスの半導体製造機器メーカー、ASMLに対し、オランダ政府が最先端の機器を中国の顧客に販売するライセンスを与えたことがきっかけだったという。

3人の関係者によれば、その後数カ月にわたって米当局者は、この輸出を直接阻止することが可能か否かを検証し、オランダ政府当局者との間で少なくとも4回の協議を行ったという。

結果として、オランダのマーク・ルッテ首相が訪米中だった昨年7月18日、チャールズ・カッパーマン大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)が、ホワイトハウス内でオランダ側にこの問題を持ちかけることになった。事情に詳しい元米国政府当局者によれば、このときルッテ首相には、中国がASMLのテクノロジーを取得することで想定される影響に関する情報機関の報告書が示されたという

こうした圧力は功を奏したように見える。ルッテ首相の訪米後まもなく、オランダ政府はASMLに与えた輸出ライセンスを更新しないと決定し、1億5000万ドル相当の機器はまだ、船積みされていない。

オランダ首相府のイルゼ・ファン・エバリング報道官は、個別のライセンス事案については話せないとして、コメントを拒否している。

出荷の遅延を最初に報じたのは、11月6日の日経アジアン・レビューの記事だが、米国からの圧力の詳細は、これまで明らかにされていなかった。ASMLは、新規のライセンス要請が承認されるのを待っているとして、それ以上のコメントは拒否している。

ASMLは中国側顧客について、全く公表していないが、日経その他の報道では、中国最大の半導体製造専門企業である中芯国際集成電路製造(SMIC)とされている。SMICにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

<核心部分は安全保障>

ASMLの機器は、ウエハーと呼ばれるシリコン板にきわめて精細な回路をレイアウトするため、レーザーによって生成し巨大なミラーで絞り込まれる極端紫外線(EUV)のビームを利用する。これによって、民生用でも軍事用でも不可欠とされる、より高速で強力なマイクロプロセッサ、メモリその他の先進的な部品の製造が可能になる。

現在、最先端の半導体を製造する能力を持っているのは、米国のインテルや韓国のサムスン電子<005930.KS>、台湾のTSMC<2330.TW>など一握りの企業に限られる。

だが、中国はこれらの企業に半導体製造技術の分野で追いつくことを重要な国家的優先課題として掲げており、その取り組みに数百億ドルを投資している。

こうした動きは、国家安全保障上の理由から中国への高度テクノロジーの流出阻止を目指すトランプ政権の取り組みと真っ向から対立してきた。米国製品の輸出企業は現在、特別な許可がなければ、ブラックリストに掲載された中国企業、たとえば巨大電気通信メーカーの華為技術(ファーウェイ)や監視機器を扱う杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)<002415.SZ>などへの輸出を行うことができない。

また、米国政府は、たとえブラックリストに掲載されていない相手であっても、米国のテクノロジーによって作られた製品を販売したいと考える企業に対して、中国企業への輸出許可を与えない場合がありうる。とはいえ、米国外で製造を行っているASMLのような企業の場合は、テクノロジー流出の防止がはるかに難しくなる。

現在の規制のもとでは、米国は自国製部品が価格の25%以上に相当する場合、他国から中国に向けて出荷される多くのハイテク製品に関して、米国政府による許可取得を義務づけることができる。2人の関係者によると、米商務省はASMLのEUV機器について監査を実施。しかし、25%以上という基準に該当するという結論には至らなかった、と関係者の1人は明らかにした。

ロイターが昨年11月に報じたとおり、米商務省は現在、一部のケースに関して、25%という基準をさらに厳しくすることを検討している。

輸出を直接阻止する方法がなかったため、トランプ政権は同盟国であるオランダに対し、安全保障上の観点を考慮するよう求めた。リソグラフィ機器は、民生・軍事の双方で利用される、いわゆる「軍民両用」テクノロジーの輸出制限に関して協調する「ワッセナー・アレンジメント」と呼ばれる国際協定の対象となっている。

2人の関係者がロイターに語ったところでは、米国防総省当局者は、ASML製品輸出の安全保障上のリスクに関して、オランダ側のカウンターパートと協議を重ねた。会合は2018年末と2019年1月にワシントンのオランダ大使館で行われたという。

また、3人の関係者によると、ASMLとしては営業上の理由から輸出を推進する必要に迫られていたものの、ポンペオ国務長官がルッテ首相に直接、製品輸出を阻止するよう促したという。

過去20年間にリソグラフィ市場で圧倒的シェアを誇るようになったASMLは、株式時価総額が1100億ユーロを超え、オランダ産業界の花形である。

ポンペオ国務長官は昨年6月3日、ハーグで記者団に対し「我々が求めているのは、我々の同盟国・友好国が、共通の安全保障上の利益を損なう行動を取らないように、ということだ」と語ったが、半導体製造機器については特に触れなかった。

米国務省にコメントを求めたが、回答は得られていない。

6週間後、ホワイトハウス訪問中のルッテ首相は、情報機関による報告書の写しを与えられた。トランプ米大統領がホワイトハウスでルッテ首相と会談した際に、ASMLの機器輸出問題に触れたかどうか、ロイターでは確認することができなかった。

オランダ外務省が公開している輸出ライセンスに関する一般向けデータベースによれば、ASMLが取得した輸出ライセンスは活用されないまま2019年6月30日に失効。その後、更新申請の通常の審査期間である8週間を経ても、新たなライセンスは付与されていない。

オランダ外務省のイレーネ・ゲリッツェン報道官は、軍民両用テクノロジーの輸出ライセンスについて、オランダ政府は主権国として独自に判断しており、個別の事例についてはコメントしないと話している。

ASMLでは、EUV機器輸出のライセンスの有無にかかわらず、旧世代の機器の輸出が続くことから、2020年には中国向け輸出が拡大すると予想している。

(Alexandra Alper記者, Toby Sterling記者、Stephen Nellis記者、翻訳:エァクレーレン)

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、GDPワラント債再編手続き完了 デフォ

ワールド

プーチン大統領、北朝鮮の金総書記に新年のメッセージ

ワールド

焦点:ロシア防衛企業の苦悩、経営者が赤の広場で焼身

ワールド

北朝鮮の金総書記、24日に長距離ミサイルの試射を監
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中