ニュース速報

ワールド

焦点:トランプ氏の訪欧に身構え、岐路に立つ欧米同盟関係

2018年07月10日(火)18時49分

7月8日、今週開催される北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を控え、欧州首脳は、トランプ米大統領にもはや何の幻想も抱いていないと語る一方で、同大統領のアメリカ・ファースト主義が、誰のためにもならない「決定的瞬間」をもたらすことを懸念している。写真は7日、ブリュッセルでNATO首脳会議開催に抗議する人々(2018年 ロイター/Eric Vidal)

Robin Emmott and Lesley Wroughton

[ブリュッセル/ワシントン 8日 ロイター] - 今週開催される北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を控え、欧州首脳は、トランプ米大統領にもはや何の幻想も抱いていないと語る一方で、同大統領のアメリカ・ファースト主義が、誰のためにもならない「決定的瞬間」をもたらすことを懸念している。

トランプ大統領の就任1年目には、米国の外交政策に安定と親和性を模索していた欧州の友好国だが、今では予測不能な政治的反乱分子としてトランプ氏を受け入れるに至った。とはいえ、自国の優先事案が台無しにされるのを目の当たりにすることが簡単になる訳ではない。

「古き信頼の柱が崩れつつある」──。ドイツのマース外相は、最近行った演説でそう語り、2015年のイラン核合意からの離脱を決め、欧州からの輸入鉄鋼製品に関税を課し、さらに輸入自動車への関税引き上げをちらつかせる米国を暗に批判した。

米国は、欧州に配備する米軍兵力を増強する一方で、他のNATO加盟国の防衛費負担を批判、2017年に行った対ロシア追加制裁では欧州との調整を怠るなど、NATOの古くからの敵対国であるロシアに対して相反するメッセージを送っている。

70年近い歴史を持つNATOにおいて事実上のリーダー役を担う米国大統領は、11─12日に行われるNATO首脳会談でどのようなメッセージを送るか、明白にしている。それは、他の加盟国は、国防費を大幅に増額し、輸入関税を引き下げろ、というものだ。

「NATOに対して、自身の負担費用を払い始めるよう告げる。米国は全ての世話はできない」と、トランプ大統領は先週の演説で語り、「貿易では、彼らにやっつけられている」と付け加えた。

米国が国防費の70%をNATOにつぎ込んでいると、米政府当局者や政治家は常々口にしているが、欧州側は全面的にこれを否定している。ある欧州政府高官は、実際は15%程度に過ぎないと指摘する。

加えて、米国からの輸入製品に対する欧州連合(EU)の関税は、大半がすでに低い水準にあると、欧州政府関係者は語る。

NATO首脳会談が決裂すれば、亀裂が表面化した6月の主要7カ国(G7)首脳会議よりもさらに外聞の悪い結果となる。ロシアのプーチン大統領と16日にヘルシンキで行われる米ロ首脳会談が、友好的な雰囲気で行われれば、なおさらだとNATO外交官らは語る。

ウェス・ミッチェル米国務次官補(欧州・ユーラシア担当)は、ブリュッセルで最近行ったスピーチで、トランプ大統領は、たとえ単独で行動することになろうとも、中東和平などの長年の課題に新たなアプローチを取っていると説明した。

「われわれの行動によって、世界でもっとも困難な問題に対応するための多国間における反応を引き出すことを願っている」と、ミッチェル氏は外交官やNATO当局者に語った。

これは、米国家安全保障会議のフィオナ・ヒル首席顧問(ロシア担当)がEU外交幹部に語った非公式発言と重なる。ヒル氏はトランプ氏の政策決定を矛盾のない全体像の中に位置づけようとしていたという。

「ショックだった。トランプ大統領は、過去に行われた米国とEUの協調政策には関心がないことに気づいた」と、その場にいた幹部外交官の1人は話す。「米国のリーダーシップなしには、物事は動かない」

<無視された>

ブリュッセルで6月行われた米国と欧州のパートナーシップ100周年を祝うレセプションで、アダム・シューブ駐EU米公使は、貿易やイランなどを巡る現状についても、米EUには共通の足場があると強調しようと試みた。だが出席したEU外交官からは、異論を唱えるつぶやきが漏れるばかりだった。

米国と欧州の緊張について質問されたNATOのストルテンベルグ事務総長は、意見の不一致を乗り越えた過去の例として、1956年のスエズ危機や、2003年のイラク戦争を上げた。

だがEU関係者は、トランプ氏は問題解決に関心がないように見えると言う。鉄鋼関税を回避し、米国をイラン核合意にとどめるため、今年行われたEU高官と米通商代表部や国務省担当者とのトップレベル協議を、トランプ大統領は無視したと彼らは訴える。

防衛については、欧州とカナダはトランプ氏の要求に応える姿勢を示している。NATOの欧州加盟国とカナダ、トルコの国防費は、2018年は4%近く増加する見通しで、2015年以降では累計900億ドル(約9.9兆円)近い増額が実現することになる。

だがそれでも、トランプ氏に再び要求を高めることを思いとどめさせるには不十分かもしれないと、米国防高官は最近指摘する。

「大統領が、再び彼ら(欧州諸国)が十分な負担をしていないと文句をつけたり、負担を増やさなければ撤退すると脅すなどして、NATO首脳会談を中断させる可能性は半々以上だ」と、この高官は語った。

トランプ大統領がプーチン大統領にアピールするために米軍演習を凍結したり、バルト諸国に展開している兵力の撤退を表明する「最悪のシナリオ」にも備えている、とNATO外交幹部2人はロイターに話った。

<問われる存在意義>

ある米国務省高官は、トランプ外交は共和党の考え方に沿ったものであり、米欧間の緊張は以前から続いていたものだと話す。

現状がぎくしゃくしているとはいえ、米政権は「(米欧)関係を深く評価している」と、この高官は語る。「われわれのもっとも緊密な同盟国であり、彼らの支持に非常に感謝している。この緊張状態は、ずっと続いてきたものだ。だが関係全体については、楽観的にみている」

トランプ大統領が5月8日にイラン核合意からの脱退を決めたことは、大きな後退として受け止められており、EU当局者の間では欧州外交の「存在が問われる瞬間」だとの議論も出ている。

フランスのマクロン大統領やドイツのメルケル首相による訪問も含め、ホワイトハウスとの関係を築こうとするEUの努力は、おおむね失敗に終わったと、EU当局者は話す。

これにより、イラン核合意に関連する資金がイラン政府に流れ続けるよう、日本との関係を緊密にし、ロシアと中国の協力を得るなど、EUは他の協力関係を求めることになる。

「かつてはトランプ大統領の政策にあきれていたが、今では常軌を逸していた部分が、より戦略的になりつつあるようだ」と、ヒル氏との会合に出席した別の外交官は言う。「われわれの目標推進のため、あらゆる種類のパートナーを求めざるを得ない」

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

ロイター
Copyright (C) 2018 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナのエネ施設に大規模攻撃、無人機400機以

ワールド

米国防総省、ハーバード大との軍事教育プログラム終了

ワールド

米が6月までの戦争終結要求、ロ・ウクライナに=ゼレ

ビジネス

アングル:ラグジュアリー業界、シェア獲得に向け支出
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本版独占試写会 60名様ご招待
  • 4
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 5
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 6
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 7
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    心停止の8割は自宅で起きている──ドラマが広める危険…
  • 10
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中