ニュース速報

ビジネス

焦点:社用機の私的利用、米企業の租税負担に重圧

2019年12月07日(土)09時20分

 米国企業による社用ビジネスジェットの利用が金融危機前の水準に近づき、幹部が会社経費で社用機を私用に使う例も増えているなかで、こうした特権にいくらのコストがかかっているか、その実態は多くの投資家の目から隠されたままとなっている。写真は10月にラスベガスで開かれた全米ビジネス航空協会の展示会で撮影(2019年 ロイター/David Becker)

Tim McLaughlin

[ボストン 2日 ロイター] - 米国企業による社用ビジネスジェットの利用が金融危機前の水準に近づき、経営者や上級幹部たちが会社経費で社用機を私用に使う例も増えているなかで、こうした特権にいくらのコストがかかっているか、その実態は多くの投資家の目から隠されたままとなっている。

S&P500社のうち、最高経営責任者(CEO)による私用の社用機搭乗を認めている企業では、そうしたフライトに要する平均推定コストが、2017年の9万6532ドルから昨年は10万7286ドルと11%上昇した。

この数字は幹部報酬調査会社エクイラーが提供する最新のデータによるもので、金融危機の前年に当たる2007年の8万4636ドルに比べ、27%上昇している。

私的な利用のコストは経営幹部が課税されるべき所得だ。こうした推定は民間航空会社のフライトでファーストクラス料金に基づいている場合が多いが、社用機を使う場合は、実際のコストがはるかに高くなる。

<トランプ規制で問題は深刻化>

プライベート利用の目的は、家族との休暇から主要スポーツイベント観戦のための旅行、遠隔地にある家族の住居からの出勤などさまざまだが、問題は企業がこうしたフライトの費用を丸々負担しているというだけでなく、控除が適用できなくなるせいで企業の租税負担がかなり大きくなっている可能性があるという点にある。

というのも、内国歳入庁では、幹部個人による社用機使用に関する法人税額控除に関しては、その幹部による使用が生み出した業務上の推定価値を上限としているためである。

その結果、プライベート目的で社用機が使われた場合には、企業はパイロットの給与、メンテナンス費用、保険、機体の減価償却、リース費用など、さまざまな税額控除を利用できなくなる。

この問題をさらに深刻化させたのが、ドナルド・トランプ大統領が成立させた2017年減税・雇用法である。

法律事務所ウィンストン&ストローンLLPのパートナーを務める税金の専門家ルース・ワイマー氏によれば、この法律によって2種類のフライトに関する控除が廃止されてしまった。対象となったのは、純粋にビジネス上の接待(CEOがクライアントをゴルフの大会に誘うなど)、そして幹部が自宅から出勤するために社用機を使う場合であるという。

だが、米証券取引委員会(SEC)は、どの程度の費用が控除の適用外となったか開示を義務づけていないため、投資家には何も分からないままだ。

連邦航空局のデータによれば、米国における企業社用機の運航は、2019年には発着回数450万回に達する勢いで、2007年以来で最高となっている。ただし、大企業幹部による利用が占める比率はわずかである。

米国における社用機の利用に対する社会的なイメージは、金融危機が悪化の一途をたどっていた2008年に地に墜ちた。3大自動車メーカーのCEOが金融支援を求めるためにワシントンを訪れる際に社用機を使ったことが、連邦議会で厳しく批判された頃である。

その余波は非常に大きく、ゼネラルモーターズなどは、当初は救済条件のなかで社用機の使用を禁じられたほどだった。

「だがその後、経済全体が息を吹き返した。株価は過去最高を記録しており、それに伴って、社用機の利用も復活してきた」と語るのは、民間航空のトレンドを分析するシェルパリポート・ドットコムのニック・コプリー社長。

開示された情報によれば、GMも社用機の運航を復活させている。

<「幹部報酬の隠された要素」>

とはいえ、多くの企業においては、投資家にとって社用機の本当のコストは謎のままだ。

S&P500社に含まれる企業の委任状説明書をロイターが分析したところ、公的な提出書類のなかで、控除適用外となった価額を詳述していた企業はごく少数にとどまった。

こうした情報を開示していた数少ない企業の1つが、決済システム・クレジットカード事業のビザである。同社の委任状説明書によれば、幹部及びそのゲストによる社用機のプライベート利用によって失われた控除額が、2016年から2018年にかけて4倍以上に増加し、2018年9月決算の会計年度には480万ドルに達したとされている。

ビザにコメントを求めるメッセージを送ったが、回答は得られていない。

もう1つの例外的な企業がケーブルテレビ放送グループのコムキャストで、2018年、幹部及びそのゲストによるフライトに関して適用されなかった控除額は880万ドルと報告されている。

コムキャストはコメントを拒否している。

500万人近い加入者を抱える労組出資の年金基金を代理するCtWインベストメント・グループでエグゼクティブ・ディレクターを務めるディーター・ワイツェネガー氏は、こうした費用が隠れた幹部報酬になっていると指摘する。

「経営幹部レベルに掛かる費用が企業にとっていかに高くついているか、もっと正確に把握することが非常に重要だ」とワイツェネガー氏は言う。「そこが開示されていなければ、投資家は失われた控除について知る機会がなくなってしまう」

ビザとコムキャストはいずれも年間の純利益が100億ドルを超えており、社用機のプライベート利用に伴う費用など些細なものかもしれないが、もっと規模の小さい企業にとっては、はるかに大きな影響が生じる可能性がある。

<「投資家に損害」との非難も>

今年初め、サンフランシスコを本拠とするヘッジファンド、ボース・キャピタル・マネジメントLLCは、保険会社アルゴ・グループ・インターナショナル・ホールディングズの取締役ポストを得るための戦略のなかで、適用除外となった控除に攻撃の的を絞った。

バーミューダに本拠を置く保険会社アルゴ・グループの2018年の純利益は6360万ドルだった。ボース・キャピタルは、社用機が「めまぐるしく世界各地を飛び回ったことにより」適用除外となった控除が積み上がり、投資家に損害を与えたと主張した。

アルゴ・グループはこの件に関してコメントを拒否している。同社は以前、幹部が社用機をプライベートな用途で使う場合は自費負担となっていると述べていた。だが、その費用の算出方法は開示されておらず、プライベート利用の結果失われた税額控除の詳細については明らかにしていない。

ボースの側でも、失われた税額控除については何の試算も示していない。同社にコメントを求めるメッセージを送ったが、回答は得られていない。

ただしボースは今年初め、ある声明のなかで、当時のアルゴ・グループCEOマーク・ワトソン氏とその家族が、2017年のクリスマス休暇中、アルゴ社保有のガルフストリーム機で「たいていの一般人であれば生涯最高の思い出になるような旅行」をしたと表現している。

この旅行は、テキサス州サンアントニオを出発し、バーミューダ、ニューヨーク、コペンハーゲン、インドのマラバル海岸、同じくインド北部のジャイプル、アムステルダムを経てテキサスに戻るという3週間の行程だった。

ボース・キャピタルは10月、アルゴ・グループの幹部報酬に関する情報開示について、SECが調査を進めていると述べた。それから数週間もしないうちに、ワトソン氏はアルゴ・グループを退社している。

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、日本が危険な偵察と指摘 自衛隊機への接近巡り

ビジネス

独シンクタンク2機関、成長率予測を上方修正 今年0

ワールド

レアアース調達難深刻、EUは中国に圧力を=独機械工

ワールド

イラン、中東緊張でもウラン濃縮放棄せず=政府筋
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 2
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 5
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 6
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 7
    【クイズ】今日は満月...6月の満月が「ストロベリー…
  • 8
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 9
    みるみる傾く船体、乗客は次々と海に...バリ島近海で…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット騒然の「食パン座り」
  • 4
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未…
  • 5
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 6
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 7
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 8
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 9
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中