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焦点:EV素材の「主役争い」激化、鉄がアルミに反撃か

2018年04月04日(水)17時44分

 3月27日、米電気自動車(EV)製造大手テスラが初の大衆車モデル「モデル3」を発表した2017年半ば、アルミニウム業界に衝撃が走った。ロサンゼルスのショールームに展示された同モデル。1月撮影(2018年 ロイター/Lucy Nicholson)

Eric Onstad

[ロンドン 27日 ロイター] - 米電気自動車(EV)製造大手テスラが初の大衆車モデルを発表した2017年半ば、アルミニウム業界に衝撃が走った。同社初の高級車モデル2種で採用されていた軽さを誇るアルミニウムが、ほぼ鉄鋼に置き換えられていたからである。

イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)率いるテスラが、重いが廉価な鉄鋼へと乗り換えたことは、EV革命で大きな恩恵を受けると期待されていたアルミニウムに対し、鉄鋼が反撃に転じている様子を浮き彫りにした。

消費者のEV普及を促進するために必須とみられている航続距離延長に向けて、バッテリーによる重量増を相殺するためには、軽量なアルミニウムが鍵になると従来思われていた。

だが、EVメーカーがバッテリーや部品の技術的は進歩に加え、低価格モデル投入によって、より大きな市場への進出を模索する中で、多くのメーカーがコスト削減狙いで鉄鋼にますます目を向けるようになっている。テスラの大衆市場向け「モデル3」は、高級車「モデルS」の7万ドルに対し、ほぼ半額の価格だ。

「かつては『EVを開発しよう』が目標だったが、今や『妥当な価格帯で開発しよう』が取って代わった」と、マッキンゼー&カンパニーのドイツ支社パートナーで、自動車産業を専門としているマウロ・エリケス氏は語る。

自動車メーカー向け市場において鉄鋼とアルミニウムのシェア争いは数十年続いているが、EVはその最新の舞台となっている。排出物質を削減し、各国政府の厳しい汚染防止基準を満たすために、車両重量を減らすことが課題となっている。

アウディ「A8」などガソリンエンジン車においても、鉄鋼は市場シェアをやや回復しつつある。最新の「A8」ではアルミニウムの大量使用を止め、鉄鋼、アルミニウム、マグネシウム、カーボンファイバーの混用にシフトした。

バッテリー駆動車に対する需要が急増するなかで、使用されるメタル原材料を巡る競争も激しさを増している。

金属産業専門コンサルタント会社CRUによれば、EV・ハイブリッド車の販売台数シェアは、2030年までにグローバル自動車市場の30%にまで急増する見込みだという。昨年は、総計で8600万台の販売総数に対して、シェアは僅か4%に留まっていた。

世界最大の自動車市場である中国では、新エネルギーによる自動車の販売台数は、今年40%増加し100万台を超える見込みだと、中国汽車工業協会は予想している。

テスラからコメントは得られなかったが、同社が米証券取引委員会に先月提出した書類によれば、「モデル3」の設計について、「軽量かつ安全である一方で、大衆車としてコスト効率を改善するために、複数の素材をミックスしている」と説明している。

アルミニウムではなく鉄鋼を選択した他の大衆市場向けEVとしては、世界で最も販売台数の多い日産自動車<7201.T>のEV「リーフ」、それにフォルクスワーゲンの「eゴルフ」がある。

「eゴルフ」はアルミニウムを129キロ、「リーフ」も171キロ使っているのに対し、テスラの高級車「モデルS」は661キロ使用している、とA2Mac1オートモーティブ・ベンチマーキングは指摘する。テスラ「モデル3」については詳細な比率は分からなかった。

<画期的な変化>

とはいえ、「EV革命」によりアルミニウム産業が強い追い風を享受するという見込みに変化はない。特にハイブリッド車の場合、2つのエンジンを必要とするだけに恩恵は大きい。

内燃式ガソリンエンジン部分とトランスミッションは通常どちらもアルミニウムで作られており、EVにおけるバッテリーの格納容器とモーターにもアルミが使われることが多いと、独アルマグの自動車用金属専門家は語る。

また、一つには充電ステーション網が未整備であるため、純粋なEVが幅広く普及するまでにはまだ何年かかかると見込まれることから、その間は、ハイブリッド車の成長がアルミニウム産業に恩恵をもたらすと期待されている。

CRUコンサルティングのエオイン・ディンズモア氏は、EV・ハイブリッド車によるアルミニウム需要は、2030年までに10倍に膨らみ、1000万トン近くに達すると予想する。

ロンドン名物の黒塗りタクシーにも昨年初めてEVが導入されたが、これにもアルミニウムが用いられており、ノルウェーのアルミニウム製造企業ノルスク・ハイドロが英ウェールズに保有するアルミニウム製造工場の操業再開につながった。

<バッテリーの性能改善>

だが、アルミニウムが鉄鋼よりも高価であることに変わりはない。

自動車に使用されるアルミニウムと鉄鋼の価格差はかつてほど大きくはないが、鉄鋼使用によるコスト削減効果は依然かなり大きいと業界専門家は言う。

一方、EV用バッテリーの高性能化や低価格化、動力源装置と全体的な構造設計の発達により、航続距離を延ばすための軽量化を狙ってアルミを使う必要性は低下してきた。

アルマグによれば、2010年以降、バッテリーのコストは1キロワット時あたり1000ドルから同114ドルまで下落し、今後数年でさらに安くなると予想されている。

「自動車メーカーは、バッテリー価格が低下するなかで、全面的に鉄鋼を採用しても航続距離の要件を満たせるという結論に達しつつあると思う」と、世界鉄鋼協会の自動車用鋼板部会のテクニカルディレクターを務めるジョージ・コーツ氏は述べている。

自動車の中で動力を生み出す主要装置であるパワートレインの改善も、大きな影響を与えている。

日産「リーフ」2017年モデルの航続距離は、2011年モデルに比べ50%近く伸び、172キロに達した。マッキンゼーのエリケス氏によれば、これは主としてパワートレインの改善によるもので、4つの独立したシステムを1つに統合したことが功を奏したという。

<素材のミックス>

同時に、鉄鋼産業では高性能の高強度鋼材(AHSS)製品を開発してきた。通常の鉄鋼よりも強く、軽く、そして何よりも重要なことに、アルミニウムより低価格だ。

「独ティッセンクルップやアルセロール・ ミタルといった(鉄鋼)企業には、おとなしく市場シェアを譲る気はない。素材をめぐる戦いが起きるだろう」と独アルマグのパートナーであるヨースト・ゲートナー氏は語る。

今後のモデルは、さまざまなグレードの鉄鋼、アルミニウム、カーボンファイバー、マグネシウム、プラスチックなど、複雑な素材構成になる可能性が高い、と自動車メーカー各社やコンサルタントは予想する。

BMWは「i3」「i8」といったモデルで高価なアルミニウムやカーボンファイバーをふんだんに使っているが、将来のEVモデルでこれらの素材の使用を増やすことは計画していないとロイターに語った。

「(将来のEVに関しては)『すべてを1種類の素材で』というソリューションはない」と同社はメールで回答。「今後も、素材それぞれの固有の長所が活かせるような方法・分量で使っていくつもりだ」

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
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