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2026年04月06日(月)18時33分

4月2日、ニューヨーク証券取引所で撮影。REUTERS/Jeenah Moon

Vidya Ranganathan

[ロ‌ンドン 6日 ロイター] - 一部の投資家は、米国で台頭してきたビジネス・デベロップ‌メント・カンパニー(BDC)のプライベートクレジット(ノンバンク融資)業界が「コップの中の嵐」だと見なしてい​る。一方、新たな金融危機を引き起こす原因になるとの見方もある。この難解なセクターに対する双方の見解は、投資期間によってはどちらも正しくなる可能性がある。

迅速なオーダーメイド型融資を求める企業や、⁠高リターンを求める投資家によって人気が急上昇していたプ​ライベートクレジットを巡っては、昨年半ばから不穏な兆候が見え始めていた。

BDCのファンドに対し、出資者が資金の償還を求めて解約する動きが今年に入って加速している。競争激化やリターンの低下、および融資を受けたソフトウエア企業の事業構造が人工知能(AI)の台頭で根底から覆るとの懸念が背景にある。

ブルー・アウル・キャピタルは過去最高水準の解約請求を受けたことを報告し、規則に基づいて引き出し額を制限した。同業他社のアレス・マネジメントやアポロ・グローバル・マネジメント、ブラックストーン、KKRや、大手銀行のモルガン・スタンレー、JPモルガ⁠ン・チェース、ゴールドマン・サックスなどのプライベートクレジット部門も、償還額に上限を設けている。

大部分の企業はこうした償還の増加はプライベートクレジット業界が危機に直面しているわけではなく、再調整の過程にあることを示しているとの見解を示している。

それでも、他のストレスの兆候⁠も現れている。BDCはノンバ​ンク融資で得ている過去最高水準の二桁%の利回りが縮小する一方で、銀行から借り入れている金利の上昇による打撃を受けている。

米ニューヨークに拠点を置くシーポート・グローバル・ホールディングスのマネージングディレクター、ジョン・ジョルダーノ氏は「信用サイクルは訪れるし、損失も出るし、評価損も発生する。つまり、銀行が5%の金利で融資しないのには理由がある、そうだろう」と言及。その上でBDCが低いレバレッジ率を維持し、優先債を保有しているか、株式保有を通じて対象企業の経営に関与している点を指摘し、リスクが構造的なものではないと考えており、銀行セクターの資本基盤も十分に強固だと主張した。

<AIリスク>

プライベートクレジットは2008年の金融危機後に急成長した。より簡素な契約条件と、高い金利による長期融資を通じて中堅企業の買収を目指すプライベート・⁠エクイティ(PE)にとって銀行融資に代わる選択肢となった。

BDCの正確なエクスポージャー、評価額、損失に関するデータは明らかになっていな‌いが、保有する民間資産は総額で5000億ドルを超える。オルタナティブ投資運用協会(AIMA)の推計によると、民間クレジット業界は3兆5000億ドル規模に達しており、金融市場に重大な影響を及ぼす⁠ほど巨大な規模を⁠持つ。

今年に入ってから株式を上場しているBDCの一部の株価は急落し、株価に基づく時価総額は純資産価値を20%下回っている。プライベートクレジットと最も密接な関係にあるセクターの米ソフトウエアサービス企業の株価も、今年に入ってから約2割下げた。

ロンドンのマールボロの株式ポートフォリオマネージャー、ロリー・ダウイー氏は、同社がBDCへのエクスポージャーを減らし、保有していたスイスPE企業パートナーズ・グループ株も売却したことを明らかにした。パートナーズのシュテフェン・マイスター会長は3月、AIによる経済の混乱により、プライベートクレジットのデフォルト(債務不履行)率が今後数年間で倍増する可‌能性があるとの見方を示した。

オックスフォード・エコノミクスのグローバルマクロ戦略ディレクター、ハビエル・コロミナス氏は投資家向けのメモで、プライ​ベートクレジ‌ット市場は既に連鎖的な危機の初期段階にあるとし、その⁠根拠としてこれらのポートフォリオの25―35%がAIによる混乱のリスクにさらされていると​推計する。

ロンドンを拠点とするアンドロメダ・キャピタル・マネジメントのアルベルト・ガロ最高投資責任者(CIO)は「私たちはまだ問題発見の初期段階にあり、明日起こるとは限らないし、3カ月後、あるいは半年後になるかもしれない」とした上で、「100社の企業が入った箱があるとする。そのうち10社は既に倒産している会社だと分かっている。箱を開けるまでは、それらの企業はまだ生きているように見える。彼らが作り出したのはまさにそのような状況だ」と説明した。

<保険会社がツケを払うのか>

オックスフォード・エコノミクスのコロミナス氏は、銀行によるBDCへの融資総額は限られており、管理可能な範囲にあると言及。一方でより不安視されるのが、米国の生命保‌険会社や年金保険会社によるプライベートクレジットへの投資額だとした。これらの投資額は過去10年間で2倍超に膨らんでいる。

米国の保険会社の投資総額のうちプライベートクレジットが占める割合は約35%で、英保険会社の資産の4分の1弱に相当するとコロミナス氏は指摘した。

さらに懸念されるのは、PEファンドと提携している保険会​社が取引関係を通じて取得した資産が推定で1兆ドルに上っていることだと話す。プライベートクレジ⁠ットの損失の影響は、これらの保険会社の終身年金を契約している米国の年金基金や、個人にも不均衡に及ぶと予想した。

コロミナス氏は「プライベートクレジットの損失が保険会社の支払い能力を低下させた場合の結末は、2008年の金融危機で起きた銀行への取り付け騒ぎのような様相を呈するのではなく、退職後の生活保障がゆっくりと、じわじわとむしばまれる形で現れるだろう。これ​はリアルタイムで検知するのがより困難であり、巻き戻すのははるかに難しい」と分析する。

アンドロメダのガロ氏はプライベートクレジット市場の苦境が、金融危機を招いた米国のサブプライム住宅ローン問題とは「伝染経路が異なる、全く別の種類の問題だ」との見方を示した。

サブプライム問題は銀行を通じて伝染し、資産が適切に評価されていたのに対し、今回は時価評価のない保険会社を通じて起こっているため債務不履行のリスクが高まっているとして「規制当局は常に前回起きた危機と戦っているが、今回は、前回の危機の鏡写しとも言える状況だ」と語った。

ロイター
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