ホルムズ海峡危機は、ペルシャ湾岸諸国と世界経済が脆弱な海上輸送ルートに大きく依存している現状を改めて浮き彫りにした。このような状況で各国首脳や外交官たちが海峡の自由航行再開に向けて努力する一方で、それとは別の輸送プロジェクトも動き始めている。

アラブの湾岸6カ国はこの15年以上、鉄道網の建設を目指してきた。その計画がいま加速している。狙いは、湾岸諸国の経済的な統合を推進し、地域の強靱性と安全保障を強化することだ。とはいえ、鉄道計画で地域の政治や対立状況を変えることなどできるのだろうか。

1981年に湾岸協力会議(GCC)が発足して以来、6つの加盟国──バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)──の首脳は、地域統合の強化に向けて力を注いできた。しかしこれまで45年間、経済的・政治的な協力はおおむねお題目にとどまってきた。

GCC鉄道(ガルフ鉄道)プロジェクトは、2009年のGCC首脳会議で打ち出された。推定2500億ドルを投じて、6カ国を結ぶ全長2177キロの鉄道網を建設する計画だ。

当初は原油相場の低迷などにより、計画はなかなか前に進まなかった。それでも20年代に入ると、UAEとサウジアラビアの主導によりプロジェクトが加速し始めた。

そして26年2月、戦争が始まった。イランによる湾岸諸国への攻撃とホルムズ海峡封鎖が続く4月、サウジアラビアのジッダでGCCの首脳会議が開催された。会議では安全保障協力と、電力および石油関連の協力強化に加えて、GCC鉄道の早期開通を目指すことが確認された。

これまで最も工事が進んでいるのはサウジアラビアとUAEだ。UAEは6月、首都アブダビ-東部フジャイラ間の旅客輸送を開始した(貨物輸送は既に始まっていた)。サウジアラビア国境とオマーン湾を結ぶ旅客鉄道の全線も年内に開業する見通しだ。また、UAEとオマーンを結ぶ区間の建設も始まっているし、カタール、バーレーン、クウェートでも、国内での計画・設計が進んでいる。

GCC鉄道当局のトップによれば、既に計画全体の50%が完成していて、30年の全面開業に向けて順調に進んでいるとのことだ。完成すれば、オマーン湾沿岸の港からクウェート市まで延びる、湾岸地域初の統合された国境横断鉄道網が誕生する。

■湾岸地域をつなぐGCC鉄道

湾岸地域をつなぐGCC鉄道
Map:The Conversation, CC-BY-ND Source: GCC Railways Authority・Created with Datawrapper

湾岸地域の鉄道計画はこれだけにとどまらない。さらにスケールの大きな計画も具体化しつつある。ヨーロッパとこの地域を結ぶ鉄道ルートも検討もしくは開発段階にある。

複数のルートが候補に挙がっている。クウェートからイラク、トルコを経由するルート(下地図①)。サウジアラビアを横断し、ヨルダン、シリア、トルコを経由するルート(同②)。サウジアラビアを縦断し、ヨルダン経由でイスラエルのハイファ港に至るルート(同③)。そして、サウジアラビアで計画されている鉄道輸送路(「ランドブリッジ」計画)を利用してペルシャ湾沿岸から紅海沿岸に出て、そこから船でスエズ運河を通るルート(同④)である。

■ヨーロッパやアジアとの接続を可能に

ヨーロッパやアジアとの接続を可能に
Map:The Conversation, CC-BY-ND・Created with Datawrapper

一方、UAEのフジャイラ港やオマーンのソハール港など、オマーン湾沿いのGCC鉄道沿線の港は、ホルムズ海峡を経ずに、アラビア海とインド洋を経由して湾岸諸国とアジア市場を結ぶ役割を担う。

こうした輸送ルートの確立を目指す複数の取り組みが既に動き出している。例えばインド、EU、アメリカが支援する「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC)」、サウジアラビアの「ランドブリッジ」計画、イラクとトルコを結ぶ「開発の道プロジェクト」などだ。

そしてこの6月には、サウジアラビアとトルコが物流・鉄道分野の協力に関する覚書を締結した。そこには、100年以上前のオスマン帝国時代にさかのぼる歴史を持つヒジャーズ鉄道を復活させ、ヨルダンとシリアを経由してトルコとサウジアラビアを結ぶ計画も含まれている。

以上の4つの構想はいずれも、ペルシャ湾岸諸国からヨーロッパもしくは地中海まで鉄道網を延伸させることを目指すものだ。

GCC鉄道、そして湾岸諸国とヨーロッパを結ぶ鉄道は、単なるインフラ以上の意味を持つ。ビジネスや観光で国境を越える何千万もの人たちを互いに結び付ける役割も果たす。さらに、域外の旅行者が複数の湾岸諸国を巡りやすくなり、観光業界には追い風となるだろう。

地域の政治の安定や経済発展が後押しされることもあり得る。イラクが参加する「開発の道プロジェクト」は、GCC諸国とイラクの関係を、これまでのようなイランの影響力や安全保障上の懸念ではなく、経済的な結び付きと共通の利益を中心とした関係へ様変わりさせるかもしれない。

GCC諸国の統合が一層進めば、内戦後のシリアへの投資と経済成長が促される可能性もある。GCC加盟国間の紛争を防ぐ効果も期待できそうだ。GCC諸国は差し当たり、経済的・政治的な協力の強化を、イランに対抗する手だてと位置付けるだろうが、ゆくゆくは鉄道計画がイランとGCC諸国の関係改善につながる可能性もある。

歴史的に見れば、鉄道はアメリカやカナダなど多くの国の国家形成に大きな役割を果たしてきた。ヨーロッパの国々を結び付け、第2次大戦後の日本や現代の中国の発展にも貢献してきた。

GCC鉄道プロジェクトも、このような歴史的文脈の中に位置付けるべきだ。単なるインフラではなく、湾岸地域の強靱性を高め、経済統合を深化させ、ホルムズ海峡への依存を減らし、GCC諸国をアジア、中東、ヨーロッパを結ぶ存在にするための戦略となるのだから。

鉄道が戦争を防いだり、地政学的対立をなくしたりすることはできない。それでも長い目で見れば、人々の行動や意思決定の土台を成す経済的なインセンティブや自己認識を変容させる可能性がある。鉄道には、実効性のある地域協力を軌道に乗せる力があるのだ。

The Conversation

Stacy D. VanDeveer, Professor of Global Governance & Human Security, UMass Boston and Firmesk Rahim, PhD Student, UMass Boston

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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