暗闇の中から、糸のように細長い腕を垂らした奇妙な生き物が現れる。大きなひれをゆっくりと波打たせながら漂う姿は、まるでSF映画に登場する異星生物のようだ。
その正体は、深海に生息する極めて珍しいイカ「ビッグフィン・スクイッド(Magnapinna属)」だ。
米海洋大気庁(NOAA)は今月、世界の海に生息する頭足類を紹介する記事の中で、この深海イカを取り上げた。
紹介されたのは、米カリフォルニア州のモントレー湾水族館研究所(MBARI)とNOAAの研究者らが8月7日に撮影し、9月2日に公開した映像だ。
撮影場所はカリフォルニア州沖のデービッドソン海山付近、水深約3277メートル。無人潜水艇による海底調査中、暗闇から突然その姿を現した。
ビッグフィン・スクイッドの最大の特徴は、途中で肘のように折れ曲がった、異様に長い腕と触腕だ。研究者らは、その先端にある粘着性の糸状部分を使って小さな獲物を捕らえている可能性があると考えている。
しかし、実際に何を食べ、どのように繁殖するのかなど、生態の多くは分かっていない。
このイカは世界でも観察・採集例が約70件しかなく、今回の撮影は北東太平洋で生きた姿が確認された初めての記録となった。
発見した研究者のオリビア・ソアレス・ペレイラは、最初に画面の端に現れた細い腕を見て、クラゲかと思ったという。しかし、特徴的な「肘」のような部分が見えた瞬間に正体に気付き、思わず叫んだと振り返っている。
一方、今年発表された学術研究では、世界各地の目撃記録や採集標本を分析し、ビッグフィン・スクイッドが太平洋、大西洋、インド洋など広範囲に分布していることが示された。生息域は世界の海洋の体積の約70%に及ぶ可能性があるという。
ほとんど姿を見せないにもかかわらず、広大な海に生息しているかもしれない謎のイカ。深海には、まだ解明されていない世界が広がっている。