原点回帰が生む新しい音楽、ナム・イェジ

散漫な視線が生み出すサウンドからにじみ出る "原点回帰"、もしくは"故きを温ねて新しきを知る"傾向は、ここのところ、韓国のジャズの世界でも強まっているのが興味深い。今回のKMAで「最優秀ジャズボーカルアルバム」に選ばれたナム・イェジ『古い歌、すき間』は、そうした流れを象徴する1枚と言えよう。

ナム・イェジはコンポーザー、アレンジャー、作詞家、大学教授、作家としても活動する才媛。彼女はある日、日本統治下(1910年~45年)の朝鮮半島で親しまれていた歌謡曲に興味をもち、その中でもスウィングジャズの影響を受けた曲について調べていくうちに新作のテーマを思い立つ。それは「戦時中に出たジャズ禁止令がもしなかったら、韓国のジャズはどう変わったのか」。韓国の民謡、唱歌、昔の歌謡などをまろやかな歌声と気品のある演奏でリメイクした『古い歌、すき間』は、これこそがジャズの本来あるべき姿だと力強く主張しており、聴いている側も思わず力強くうなずいてしまう。

中央大学在学中に学内の青龍歌謡祭と当時MNetが主催したI-Dream歌謡祭で大賞を受賞したナム・イェジは2003年にプロデビュー。今回の受賞アルバムに関連してリサーチをした内容を「日本統治時代の韓国初期ジャズに関する研究-1927年から1940年の間、新聞·雑誌のテキストを中心に」という学術論文としても発表している。 Nam Yeji / YouTube

残念ながらノミネートだけで終わってしまったが、女性シンガーソングライターのチュ・ヘリンを〈今年の新人〉候補に入れたKMAの選考委員には拍手を送りたい。2021年にデビューした彼女が手掛けるサウンドは、シティポップやニューミュージック、AORといったワードで反応する人であれば好きになるだろう。ダンスミュージックやバラードがヒットしやすい韓国では埋もれがちなタイプであるがゆえに、天性の才能にちゃんと光をあててくれただけでも本当にありがたいと思う。

チュ・ヘリンは21年にシングル「kids」でデビュー、24年に初のミニアルバム「COOL」を発表。曲ごとに異なるテーマとサウンドを用いているが、本人は「メロディーだけ聴いたときにも力があるのか、心に響くのか」を重視して創作しているという。 주혜린 / YouTube

aespa、BIBIなどメインストリームのアーティストも評価

以上のように、海外では見逃してしまいがちなアーティスト・作品をたくさんピックアップするのがKMAの最大の良さである。また、メインストリームの音楽でも良いものは良いと賞の候補になるのも信頼されている理由のひとつだ。第22回ではガールズグループ・aespaが「今年の歌」を含む3部門で受賞を果たし、2024年に主要チャートの1位になったBIBIの「栗ようかん」が「最優秀ポップソング」に決まった。ノミネート作品のリストではIUやILLITなども見つけることができる。

aespaの「Supernova」は韓国音楽コンテンツ協会のサークルチャートでデジタルチャート部門の2024年年間1位になった大ヒット曲。昨年5月にリリースされてから1年近く経った今もランキング上位に残っている。 SMTOWN / YouTube
BIBIの「栗ようかん」は、M/Vに出演もしているチャン・ギハが作詞・作曲した楽曲。この曲のヒットで彼女は多くの人に名前を知られるようになった。 BIBI / YouTube

他にもお薦めしたいアーティスト・作品はまだあるが、だらだらと書いてしまうのは気が引けてしまう。後は、KMAの公式サイトや、受賞者の情報を日本語で掲載するBUZZY ROOTSで気になる音を探して聴いてほしい。より深く、多面的に韓国の大衆音楽の魅力を堪能できるはずだ。

【動画】『韓国大衆音楽賞』の受賞者たち
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