コラム

株価は最高値更新なのに、日本人の気分は暗すぎる...このギャップをどう考える?

2024年03月17日(日)13時07分
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
日経平均、株式市場、東京証券取引所、日本経済

ISSEI KATOーREUTERS

<日経平均が上昇基調で日本が長い低迷期を抜ける兆しがあるのに、相変わらず人々の気分は暗い。だが日本社会の古い体質が変わりつつあるのは確か。こんなときに必要な最後のピースとは?>

2月に日経平均株価が、それまでの史上最高値を更新した。1989年12月につけた最高値を実に34年ぶりに更新したのである。

89年12月、あなたは何をしていましたか? 振り返ってみれば、まさにバブル最高潮のあの時のご自分を思い出せるだろう。あの後バブルはあっという間に崩壊し、どん底の景気で銀行や証券会社がつぶれた。就職氷河期や非正規雇用問題で若者が苦しみ、口を開けば誰もが景気が悪いと言い続けた。来日して20年の私はずっと不景気の日本で暮らしてきたが、34年を生きた日本人にとってはつくづく暗い年月だったことだろう。

日本が長い経済の低迷に沈んでいる間に、他の国は浮き沈みはあっても成長基調で、日本人にとってはモノもサービスも高くなってしまった。海外への飛行機代もブランド品も以前の2~3倍の価格になったと感じられる。20〜30年前は日本人がこぞって訪れていたハワイも現地の物価が高すぎて、スーツケースにレトルト白米を毎食分詰めていく、というのも笑い話ではなく現実だ。

私もニューヨーク旅行の計画を立てていたのだが、1人40万円という飛行機代のため断念した。アメリカ在住の友人に言わせると、40万円は大して高くないらしい。2021年のアメリカの世帯所得の中央値は約1100万円で、日本は423万円、日本はずいぶん貧しくなってしまった。

イランと日本との違い

だがその長い低迷期がやっと終わりかけているのか、希望の光が差してきた気がする。株価だけでなく日本の多くの企業も業績好調で、今年の春闘での賃上げも期待できるし、既に賃金を上げている企業もある。日本経済の、ひいては日本の未来が少しずつ明るく見えてきた。しかし、そのような話を日本人にすると、ネガティブな反応が返ってくる。

いわく、実質賃金は下落が続き、株高の要因も通貨安での企業利益のかさ上げ、輸入物価高によるインフレが主な原因だ。庶民に株高の恩恵は届かず、誰も浮かれていない、そもそも日本株を買っているのは主に海外勢だ......。確かに間違いではない。でも暗すぎないだろうか。

昨今の日本人の批判精神は素晴らしいし、常に批判精神は持っていたいものだ。だが同時に、文句ばかり言っているようにも見える。私のように国際社会から経済制裁を受け続けているイランの出身者からすると、日本人はずいぶん恵まれている。

イランは助け合いの精神がベースにはあるが、国を当てにせずリスクを取ってがむしゃらに働け、そうしなければそれなりの生活も成功もできないという厳しい社会であり、その考えは子どもの頃からたたき込まれる。祖国に見切りをつけて留学や移民で外国に出て、成功を収めた人も多い。他人と違わないこと、和を乱さないことを良しとする多くの日本人とは、国や社会に対する視点が異なるのかもしれない。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インタビュー:高市外交、「トランプ氏の要求」と「習

ビジネス

マツダと日鉄、車体開発初期から連携 鋼材集約発注で

ビジネス

アングル:金の高騰、新たな局面に「FOMO」買い浮

ワールド

インド、ロシア産原油輸入を大幅削減へ 米の新たな制
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 4
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 7
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 8
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 9
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story