コラム

悪化する日本の「報道の自由度」...大手マスコミは自ら「自由を放棄」している

2022年05月19日(木)18時14分
西村カリン
岸田首相記者会見

RODRIGO REYES MARINーPOOLーREUTERS

<記者クラブの弊害として生まれる日本の報道の不自由さは、コロナ危機でさらに深刻に。だが大手マスコミは「自分たちに都合が良い」と錯覚している>

5月3日、国際ジャーナリスト団体の国境なき記者団が第20回世界報道自由度ランキングを発表した。日本は一昨年の66位、昨年の67位から今年は71位に後退。報道の自由度は引き続き悪化している。

記者としては、それほどびっくりしていない。もちろん日本は記者が殺されるような国ではないが、報道の自由が完全に保障されていないことは事実だ。日本の大手マスコミの記者ならそれを否定するかもしれないが、私のような外国人記者は特に制限を感じている。

主な原因は、大手マスコミと権力者の関係だ。マスコミは「第4の権力」と呼ばれる。司法、行政、立法の三権と並び、それらを監視する役割ゆえだが、日本ではそうは言えない。記者クラブのせいで、日本の大手マスコミは首相官邸や各省庁とウィンウィンの関係にある。連携していると言っても過言ではない。

例えば、首相のマスコミ対応を分析してみる。現職の岸田文雄首相は明らかに大手マスコミの希望に応じる態度でいる。そうすれば批判を抑えられるからだろう。具体的には、岸田首相はほぼ毎日、ぶら下がり取材に応じている。多くの質問を受け付けるところが、菅義偉前首相の姿勢とは大きく異なる。

ぶら下がりを40分行うこともあり、そこに参加できる日本の記者たちは満足だろう。複数の社が、「首相はぶら下がりを積極的に活用」などと肯定的に報じている。

1時間だった会見は40分程度に短縮

ただ外国人記者は参加できず、いくら頑張っても首相に話を聞けない。しかもぶら下がり取材が多いからか、一部の外国人記者も出席できる記者会見は回数も時間も少なくなってしまった。

岸田首相は、例えば月2回の記者会見をしても、従来なら1時間だったところを、最近は「日程の関係で」40分程度しか行わないことが増えた。首相の冒頭発言は大体20分なので、質疑応答の時間は20分だけ。そのうち、半分以上は記者クラブの記者による質問だ。

その質問内容はほぼ全て事前に官邸に伝わっているから、首相の回答も事前に用意されたものだ。そして抽選で参加したほかの記者(雑誌記者やフリージャーナリスト、外国メディア記者)は、多くても2~3問しか質問できない。

岸田首相は菅前首相と違って、質問をよく聞いた上で自分の言葉で答えるし、質問とあまり関係のないメモを読み上げることはない。とはいえ、実は中身の乏しい回答が多い。それでも記者は「質問にきちんと答えてください」と言えないし、追加質問も禁止されている。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国10月指標、鉱工業生産・小売売上高が1年超ぶり

ワールド

ロシア産原油140万バレルが船内に滞留 米制裁で荷

ビジネス

中国新築住宅価格、10月は-0.5% 1年ぶり大幅

ワールド

原油先物は2%超高、ロシア南部の石油備蓄基地にドロ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story