コラム

ジンバブエの旗とハイパーインフレ

2016年04月07日(木)16時00分

5000億%のインフレ  ジンバブエで発行された100兆ジンバブエドル札  Philimon Bulawayo-REUTERS

 東京、大塚の駅前に「岩舟」という蕎麦の名店がある。店の構えはお蕎麦屋さんとは思えないモダンな造りだが、開店前から人が並ぶ人気のお店でもある。そこでつい最近、評論家の古谷経衡氏と待ち合わせて昼食をともにした。彼も僕も大の蕎麦好きなのである。ただ今回は蕎麦をめぐる経済学の話ではない。

 この連載では、僕が街角でみかけたものを気軽に経済学の視点から書くという企画だ。ちなみに「街角経済学」とは、戦前に活躍した当時のリフレ派(デフレを脱して低インフレ状態にすることで経済を活性化する政策を支持する人たち)の代表者であった小汀利得の代表作『街角経済学』(1931年)からそのまま表題を拝借している。

 で、古谷氏とその蕎麦屋を出た後に、彼が送ってくれるというので車で赤坂までドライブに出た。その日はラジオ日本主宰のアイドルたちのイベントが赤坂であったのだ。蕎麦つながりでいえば、「うどんは五分そばは三分」とラップとロックを組み合わせて、超美少女が四人で、舞台におかれたやかん(カップ麺に注ぐお湯をイメージしている)を前に激しく踊る赤マルダッシュ☆が、そのイベントにでていた。だが、残念ながら今回はアイドル経済学の話でもない。

安倍首相とジンバブエのムガベ大統領が会談した

 古谷氏運転の自家用車で東京の街をドライブしていると、ちょうど迎賓館の前から永田町にかけての沿道に、見慣れない国旗が日の丸とともに掲揚されているのに気が付いた。そう下のような国旗だ。

iStock_0406.jpg

ジンバブエの国旗 iStock

 ふたりでこの国旗はどこの国だろうか? とお互いにいくつもの国の名前を出し合った。古谷氏はアフリカの国のどこかではないか、と言ったがそれは正しかった。その日、ジンバブエ共和国のムガベ大統領が安倍首相らと会談するために国賓として来日していた。日本が主導する第6回アフリカ開発会議(TICAD6、2016年8月27日,28日にケニアで開催)に、ジンバブエの協力を要請したと、安倍首相とムガベ大統領の写真が新聞やネットのサイトに掲載されていた。アフリカで意欲的な外交戦略を展開する中国への対抗として、日本はこのアフリカ会議を利用する腹積もりのようである。そのためアフリカ諸国の首脳の中でも重鎮といえるムガベ大統領に協力を要請したのだろう。

 ただジンバブエと中国はすでに深い関係にある。昨年末、中国からの負債をチャラにすることと引き換えに、2016年から中国の人民元をジンバブエの法定通貨にすることが決められている。ムガベ大統領の独裁が続くジンバブエは、欧米社会から厳しい批判をうけていた。国際社会での孤立を恐れるジンバブエと、アフリカへの影響力を強めたい中国との政治的な利害の一致が背景にある。

史上最高レベルの「ハイパーインフレ」

 またジンバブエの独自通貨「ジンバブエドル」はとっくの昔に同国での流通価値を失っている。21世紀に入る頃からインフレが高進し、初めはまだ100%台のインフレ率でマイルド(!)だったのが、ピークの2008年には一説によれば5000億%に達したという。僕の手元にも知人(評論家・翻訳家の山形浩生氏)からプレゼントされた100兆ジンバブエドルがあったりする。まさに「ハイパーインフレ」だ。それもおそらく史上最高レベルの。

プロフィール

田中秀臣

上武大学ビジネス情報学部教授、経済学者。
1961年生まれ。早稲田大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。専門は日本経済思想史、日本経済論。主な著書に『AKB48の経済学』(朝日新聞出版社)『デフレ不況 日本銀行の大罪』(同)など多数。近著に『ご当地アイドルの経済学』(イースト新書)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相が退陣表明、米関税で区切り 複数の後任候補

ワールド

石破首相が辞任表明、米大統領令「一つの区切り」 総

ワールド

インドは中国に奪われず、トランプ氏が発言修正

ワールド

26年G20サミット、トランプ氏の米ゴルフ場で開催
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 5
    ロシア航空戦力の脆弱性が浮き彫りに...ウクライナ軍…
  • 6
    金価格が過去最高を更新、「異例の急騰」招いた要因…
  • 7
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 8
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 9
    今なぜ「腹斜筋」なのか?...ブルース・リーのような…
  • 10
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 7
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 8
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 9
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story