韓国・青瓦台再移転の舞台裏 ── シャーマン、盗聴器、そして失われる高麗遺跡
青瓦台は前面に広がる景福宮によって国民と分断され、また背後に聳える北岳山の景観も相まって権威を示す威容がある。2017年に就任した文在寅(ムン・ジェイン)元大統領は、国民に近い場所へ移転する意向を示したが、警備と移転費用の捻出が課題となった。とりわけ日韓関係が悪化した任期後半には反文在寅派の活動の活発化により警備がさらに難しくなり、続くコロナパンデミックで費用捻出も厳しくなって、移転を断念した。
移転と盗聴、そして風水
続く尹前大統領は就任前の22年3月20日に移転を決定、5月10日の就任に合わせて急ピッチで移転作業が行われた。尹前大統領は移転理由として「帝王的大統領制の終息」と「国民との意思疎通」を強調したが、これらと別の2つの噂が囁かれた。
まずは盗聴だ。長年使われてきた青瓦台には韓国内外の様々な機関や組織が盗聴器を設置している可能性があり、撤去しようにもすべて探し出せるかわからないことから移転したという噂である。
尹前大統領が勤めていた韓国検察は歴代大統領と側近を相次いで摘発してきた。大統領候補として彼が浮上したきっかけも文在寅大統領の最側近とされていた曺国(チョグ・ク)元法相の起訴だった。検察が青瓦台を盗聴していたと知っていたか、あるいは盗聴を疑っていた可能性が否めない。
実際、大統領室としての使用を想定していなかった国防部庁舎への移転作業には1カ月だったのに対し、今回李在明政権による青瓦台への再移転は当初から大統領府として建設された場所にもかかわらず3カ月を要している。補修と合わせて綿密な調査を行ったのだろうか。
尹前大統領が移転を強行したもう一つの理由は風水だ。弾劾後、尹錫悦前大統領はシャーマンとの関係が取り沙汰されている。韓国の歴代大統領がことごとく不遇な最後を迎えたのは青瓦台の風水によるというシャーマンの言葉に従って移転を決めた可能性が指摘されている。
再移転に頭を抱える人びと
大統領府の青瓦台への再移転は止むなしとしながらも残念という声もある。
ソウルは1067年、高麗の副都となり、現在の青瓦台付近に王宮が作られたとされるが、詳細は不明で、韓国考古学会は調査したい意向を示している。建築歴史学会が2023年1月に「景福宮後苑基礎調査研究」で青瓦台一帯で高麗時代から朝鮮時代と推定される瓦や陶器などの遺物が確認されたと発表し、さらなる調査を求めたが、同年3月、青瓦台の運営・管理業務が文化体育観光部に移ると一般開放事業が優先されて発掘調査が難しくなった。さらに今回の大統領府の再移転によって、発掘作業は事実上不可能になる。
また今回の再移転では青瓦台の清掃や案内、施設管理、警備などを請け負っていた約200人の失業問題も浮上している。一般開放が終了した25年8月以降、賃金の80%に相当する休業手当が支給されたが年内で終了する。彼らは文化体育観光省傘下の青瓦台財団からそれぞれ業務を請け負った事業者の下請けで、一切の保証はなく、1月以降の雇用の目処は立っていない。
李大統領の住まいは?
大統領府は1月から青瓦台に移るが、李大統領が公邸を利用するかどうかは不透明だ。青瓦台の公邸は湿っぽい場所にあり、風水に加えて建物も生活空間として不適格と専門家は指摘する。
こうしたさまざまな問題がありながら、大統領府の引越は粛々と進んでいる。尹錫悦前大統領による青瓦台から龍山への移転費用は約800億ウォン、李在明政権の再移転は約500億ウォンと見積もられており、2度の移転で1300億の血税が使われることに当然ながら批判の声も多い。





