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シリア情勢

アサド政権崩壊のシリア、社会不安あおる偽情報が拡散...WhatsAppと中国の影響も

2025年2月6日(木)18時01分

例えば広く拡散した動画の一つに北部アレッポのアラウィ派施設が炎上している様子を写したものがあり、動画公開された時期はアサド政権崩壊後で最も社会不安が高まっていた時期に一致していた。動画を視聴した多くの人々がアラウィ派は脅威にさらされていると受け止め、中部ホムス市ではアラウィ派やシーア派の少数派住民が主導したとされる抗議活動が発生し、アラウィ派の住民が多い沿岸地域でも同様の動きが起きた。

しかし内務省によると、この動画はHTSが首都ダマスカスを制圧する前に撮影されており、このタイミングで拡散されたのは宗派間の対立をたきつけるのが狙いだという。

ベリファイ・シリアのアルシマレ氏はこの動画を偽情報キャンペーンの成功例に挙げ、「偽情報のネットワークはなお活発で、拡大し続けている。今後も同様の手法を使い社会不安を引き起こそうとする可能性が高い」と警鐘を鳴らす。


 

ワッツアップと中国の影響

米シンクタンク、大西洋評議会・デジタルフォレンジック研究所のルスラン・トラッド氏は、親アサド派が国内で広く普及している対話アプリ「ワッツアップ」上で「情報戦」を展開していると指摘。「シリア発の未確認情報が依然として大規模なグループチャットやチャンネルで共有されており、それが無秩序な状況を作り出している」と見ている。

シリアを巡る偽情報はより広範な地政学的な戦いの一部でもある。ソーシャルメディア調査会社グラフィカのジャック・スタブズ最高情報責任者によると、中国と関連のあるオンラインアカウントはアサド政権崩壊を利用し、反米や反イスラエルの感情など中国にとって都合の良いナラティブを拡散しようとしている。「米国の民主主義」がシリアを破壊した、などという論法だ。

ただ、こうした工作はエコーチャンバー(自分と似たような考えや価値観などを持った人々が集まる閉鎖的なデジタル空間)を出て、幅広いユーザーから大きな関心を引くまでには至っていないという。

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