最新記事
北朝鮮

「核ドミノ」は避けたい...金正恩とプーチンの接近が習近平にとって「頭痛の種」な理由

Uneasy Allies

2024年6月25日(火)13時44分
ペク・ウヨル(延世大学准教授)
金総書記と北朝鮮を訪れて歓迎を受けるプーチン大統領

24年ぶりに北朝鮮を訪れて歓迎を受けるプーチン大統領と金総書記(6月19日、平壌・金日成広場) KCNAーREUTERS

<24年ぶりの訪朝で北朝鮮との関係強化をアピールしたロシア。両者の接近で浮かび上がる中国にとっての「悪夢のシナリオ」とは──>

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が6月19日、北朝鮮を訪問し、どこかぎこちないながらも両国の接近ぶりを世界に見せつけた。

これに対して中国は長年、北朝鮮とその戦略的行動について曖昧な態度を取ってきた。中国にとって北朝鮮は、1961年の中朝友好協力相互援助条約に基づく唯一の軍事同盟国だが、とにかく扱いにくい国だった。


中国研究者の間で、中国にとって北朝鮮は「戦略的資産」であると同時に「戦略的負債」であると表現されてきたゆえんだ。

まず地政学的には、アメリカとその同盟国(韓国と日本)に対する緩衝国としての北朝鮮の重要性は、依然として高い。中国にとって、米軍が駐留する韓国との間に北朝鮮というクッションがあることには価値があるのだ。

ミサイルや軍事衛星などのハイテク兵器がいかに幅を利かせるようになっても、地上軍は究極の軍事プレゼンスだ。朝鮮半島が統一でもされて、それがアメリカの同盟国になれば、国境を直(じか)に接することになる中国にとっては心理的にも負担になる。

中国にとって北朝鮮は、韓国やアメリカに対する交渉の切り札としての価値もある。今年は中国もロシアに続いて北朝鮮の核開発計画を支持することにより、切り札としての北朝鮮の価値を高めようとするかもしれない。

北朝鮮は事実上の核保有国であり、ICBM(大陸間弾道ミサイル)やSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)などの運搬手段も確保している。この核の要素は、北東アジア(と世界)の安全保障を一段と不安定化させる大きな要因の1つと考えられてきた。

北朝鮮の核開発計画は、中国にとっての戦略的負債だ。なにしろ中国は近隣諸国の安定を重視しているのに、北朝鮮は中国のすぐ隣で意図的に不安定を起こそうとしている。

これが結局、インド太平洋地域でアメリカを中心とする安全保障体制の強化をもたらしているという意味でも、中国の頭痛の種になっている。

ウクライナ戦争の影響

北朝鮮の急速な核およびミサイル開発を受け、アメリカは朝鮮半島とその周辺における軍事的プレゼンスを大幅に強化してきた。これにはアメリカの戦略的資産(つまり核能力)の常備が含まれ、当然、中国には面白くない。

だが、ロシアは違う。ロシアはこの1年で、北朝鮮の核能力と挑発行為に対する見方を、「核拡散防止条約(NPT)体制を揺さぶる迷惑行為」から、「アメリカへの戦術的対抗措置」へと切り替えてきた。

ロシアにとって、NATOのリーダーとしてのアメリカの軍事的・経済的優位を崩すことは目標でもある。ロシアがウクライナを征服し、ヨーロッパの旧ソ連圏諸国に影響を与える上で、アメリカは最大の障害だからだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人・失業率4.6

ビジネス

ホンダがAstemoを子会社化、1523億円で日立

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

トランプ氏がBBC提訴、議会襲撃前の演説編集巡り巨
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中