最新記事

ベトナム

国家「ナンバー2」フック前首相が突然消えた、ベトナムの「自浄作用」と輸出依存型の不安な経済

Accountability Matters

2023年2月3日(金)11時19分
クイン・レ・トラン(ジャーナリスト)
フック国家主席

フック国家主席の任期途中の異例の辞任はベトナム政界を揺るがした(国家主席就任時の宣誓、21年4月) AP/AFLO

<新型コロナ絡みで官僚の収賄が大スキャンダルになったベトナム。外交政策は維持されても、国内政局は大幅改新か? ネックは世界的不況下での輸出偏重型経済の不透明性>

まさに衝撃的な出来事だった。一党支配のベトナム共産党が1月17日、グエン・スアン・フック国家主席の辞任を発表したのだ。

「4本の柱」と呼ばれるベトナムの4人の最高指導者、すなわちナンバー1の共産党書記長、ナンバー2の国家主席、そして首相と国会議長のうちの誰かが任期途中で退くのはベトナムでは南北統一以来初めて、前代未聞の事態である。

フックの辞任を受けて、党中央委員会はこの日、首都ハノイで緊急会合を開いた。フックは首相時代に起きた不正疑惑の責任を問われていたようだ。

2021年4月に国家主席の座に就くまで首相を務めていたフックは新型コロナウイルス感染症対策で陣頭指揮を執ったが、党の公式発表によるとその監督下で「副首相2人と閣僚3人を含む数人の高官が違法行為を犯し、甚大な損害を及ぼした」という。

問題の副首相2人、ファム・ビン・ミン筆頭副首相とブー・ドゥック・ダム副首相は既に辞任している。さらに、少なくとも2人の元閣僚を含む複数の政府高官がコロナ対策に便乗した収賄容疑で刑事告発されている。

「フックは自身の責任を痛感し、現在の役職から退く決断をした」と公式発表では述べられている。翌18日に開かれた臨時国会で、フックの辞任は正式に承認された。

異例ずくめのこの一連の動きは、ベトナム政治の現状、そしてフック退任がベトナムの内政と外交に及ぼす影響について深刻な懸念を抱かせずにはおかない。

党の権威を守るために

首相時代の直属の部下だった2人の副首相が辞任した時点で、大方のウオッチャーは、フックの辞任も時間の問題だとみていた。

ベトナムでは新型コロナの感染拡大時、国内企業のベトアー・テクノロジー・コーポレーションが地方当局と結託して、検査キットを法外な価格で医療機関に納入した疑惑が浮上。加えて、在外ベトナム人を帰国させる特別便の手配で旅行代理店が官僚に賄賂を贈った疑惑も取り沙汰され、コロナ禍絡みの一連の疑惑はこの国を揺るがす一大スキャンダルに発展した。

これらの疑惑をめぐり、グエン・タイン・ロン前保健相ら大物が逮捕され、党から除籍されたほか、複数の省庁幹部の身辺に捜査の手が伸び、これまでに100人以上が逮捕されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

2日に3兆円超規模の円買い介入の可能性、7日当預予

ワールド

OECD、英成長率予想引き下げ 来年はG7中最下位

ビジネス

海運マースク、第1四半期利益が予想上回る 通期予想

ビジネス

アングル:中国EC大手シーイン、有名ブランド誘致で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中