最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナ、児童養護施設にいた10万人の子どもたち 戦時下で厳しい状況に

2022年4月4日(月)11時04分

米国政府の統計によれば、過去15年間、米国の養親が引き取った養子の出身国としてウクライナは欧州で首位となっている。

ただし、ユニセフや「セーブ・ザ・チルドレン」といった児童福祉団体は、以前からウクライナの児童擁護制度を疑問視してきた。家族が限界に達する前に支援することを可能な限り優先すべきである、というのがこれらの団体の持論だからだ。

そして今、養護施設にいる何万人もの子どもたちは、戦火によりさらなる混乱に見舞われている。

社会政策省によれば、3月19日の時点で、全体の約4分の1にあたる179カ所の公立の児童養護施設が避難を余儀なくされており、養護職員らは、子どもたちを戦場からより遠ざけるためであれば、親や法定後見人のもとに戻すべきかどうかという難しい判断を迫られている。

リビウの児童養護施設の子どもたちを支援している児童心理学者のオレクシイ・ヘリウク氏によれば、適切な審査なしに子どもたちを帰宅させることは有害無益になる可能性があるという。

「子どもたちが家庭から引き離されるのは、理由があってのことだ。平時に子どもたちのニーズが満たされていなかったのであれば、戦時ではさらに状況が悪化しかねない」

だが、社会政策省の管轄下でリビウ地域での児童保護行政を率いるウォロディミル・リス氏は、戦争という危険な状況の下では、管轄当局にとって選択の余地などほとんどない、と言う。

「最大のリスクは空爆で殺されることに決まっているではないか。(略)親がどんな人間であっても、それでも親であることには変わらない」

独りで旅する子どもたち

子どもたちが両親と暮らしていた場合でも、戦火による別離が生じている。複数の援助機関は、かなりの数の子どもたちが保護者を伴わずに、近隣諸国、あるいはさらに遠くの国へと移動していると警告している。

2014年以降ウクライナで活動している「セーブ・ザ・チルドレン」の児童保護専門家アマンダ・ブライドン氏は、「単独で旅する子どもたちが、最終的にスペインやイタリア、オランダ、ドイツにまで到着したという報告を受けている」と語った。

同氏は、こうした子どもたちが、欧州内の親戚や友人のもとを頼って移動している可能性もある、と語る。だが、懸念されるのは人身売買だ。

「残念ながら、こうした子どもたちを整然と登録・追跡するシステムは整っていない」と同氏は言う。「追跡を試みようとしても、かなり込み入ったシステムになっている」

リビウ地域の児童保護行政を担当するリス氏によれば、国際的な援助機関による国内外での支援のおかげで、開戦後数週間に比べて状況は改善されてきたと言う。

書類や記録の消失・破損が進む中で、ユニセフの推計ではこれまでに180万人の子どもたちが国外に逃れたとされているが、ウクライナ政府は国境での検問を強化し、コロナ禍による緊急事態のためにすでに混乱が生じていた養子縁組の手続きを停止した。

援助機関は、この措置を歓迎している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:米援助削減で揺らぐ命綱、ケニアの子どもの

ワールド

訂正-中国、簡素化した新たなレアアース輸出許可を付

ワールド

情報BOX:米国防権限法成立へ、ウクライナ支援や中

ビジネス

アングル:米レポ市場、年末の資金調達不安が後退 F
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中