最新記事

映画

91歳になるイーストウッドが「引退はしない」理由

2021年5月28日(金)15時00分
猿渡由紀

2020年2月、AT&Tペブルビーチ・プロアマゴルフトーナメントの最終ラウンド中のクリント・イーストウッド Credit: Kyle Terada-USA TODAY Sports

<もうすぐ91歳になるクリント・イーストウッド。コロナ禍の中でも新作を撮影している>

クリント・イーストウッドが、今月31日で91歳になる。普通ならばとっくに引退している年齢だろうが、彼はまだまだバリバリの現役。テイクが少なく、無駄がなく、スピーディに撮影を進める彼は、ほぼ年に1本のペースで映画を作り続け、コロナ禍の中でも感染対策プロトコルを守りつつ新作を撮影したのだからすごい。

筆者は過去に何度かイーストウッドをインタビューしているが、最近作である2019年の「リチャード・ジュエル」でお会いした時も、やや耳が遠いかなという以外は、背筋もまっすぐで話も面白かった。メキシコの麻薬組織のために車で"物"を運ぶ実在した90年代の男性を演じたそのひとつ前の「運び屋」(2018)公開時のインタビューでは、「私も運転は好きだよ。長いドライブに出るのも好きだ。時には飛行機に乗ってゆっくり雑誌なんかを読むのもいいけれど」と、今も運転していることを明かしている。高齢者の運転は安全ではないのではと指摘されると、「そうかもしれないけれど、高速を運転していると、こいつには運転させない方がいいと思える人をたくさん見るよね。年齢に関係なく」と笑って答えていた。

「引退を考えたことはない。ルールはないんだよ」

イーストウッドはサンフランシスコ生まれ。テレビシリーズ「ローハイド」(1959-1966)でブレイクし、1971年の映画「ダーティハリー」で世界的な映画スターとなった。若い頃からヘルスコンシャスで、「ローハイド」放映中に受けたメディアの取材でも、野菜と果物をたっぷり食べる、炭水化物は控えめにし、砂糖がたっぷり入ったドリンクは飲まないなどと語っている。筆者とのインタビュー中も飲んでいるのはコーヒーやコーラではなく緑茶だったし、「健康に歳を取り続けている秘訣は何ですか?」と聞くと、「寿司。良いものを食べなきゃ」と答えた。

聞くところによると、お酒もハードリカーは飲まないようにしているらしい。しかしビールはお好きなようで、1971年には北カリフォルニアのカーメルにホッグス・ブレス・インというパブをオープンしている。この店は今も健在ながら、イーストウッドはだいぶ前に売ってしまっていて、もうオーナーではない。80年代には、やはりカーメルにあるミッション・ランチ・ホテル&レストランを買収し、大幅改修工事を行って、新たな息吹を与えた。長い歴史を持つこのホテルは、高級コンドミニアムに建て替えられる危機にあったのだが、市長を務めたこともあるイーストウッドが救いの手を差し伸べたのだ。

ゴルフが大好きな彼はまた、カーメルのタハマ・ゴルフクラブのオーナーでもあり、世界的に有名なペブルビーチ・ゴルフリンクに投資もしている。だが、ゴルフを「しなきゃいけない」状況は嫌だとも述べる。つまり、引退して暇になるのは嫌なのだ。

「引退を考えたことはない。引退したら何をするのだろうかとぼんやり考えたことはあるよ。きっとゴルフでもするんだろうなと思ったりするが、私は働いているのが好きなんだ。中には、早く引退して楽しむ人もいる。一方で、無理やり引退させられてしまう人もいる。仕事がなくなってしまうとか、他の理由でね。ビリー・ワイルダーも60年代に辞めてしまったし、フランク・キャプラも60年代から70年代の初めに辞めてしまった。どうしてそんなに早く引退したのかなと疑問に思うよ。単にもうやりたくなかったのか、テーマが尽きてしまったのか。かと思ったら、ジョン・ヒューストンは最後の映画『ザ・デッド』を車椅子に乗って作っている。あれはすごく良い映画だ。つまり、ルールはないんだよ」と、イーストウッドは2010年の筆者とのインタビューで語っている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

歳出最大122.3兆円で最終調整、新規国債は29.

ワールド

マクロスコープ:核融合電力、国内で「売買契約」始ま

ビジネス

三井住友FG、欧州で5500億円融資ファンド 米ベ

ワールド

シリア外相・国防相がプーチン氏と会談、国防や経済協
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中