最新記事

2020米大統領選

米大統領選:中国の選挙工作を見くびるな

Why Downplaying China's Election Interference Could Backfire

2020年10月2日(金)16時45分
クレイグ・シングルトン(民主主義防衛財団 非常勤研究員)

中国の選挙工作はロシアより見えにくいが、狙いは同じ。アメリカ政府の信用を失墜させることだ(9月4日) Tingshu Wang-REUTERS

<共和・民主両党とも、ロシアのことは警戒しても中国のことは見くびる傾向が強いがそれは危険な誤りだ>

「ロシア、中国とイランが11月の米大統領選に介入しようとしている」という情報当局の警告と、ジョー・バイデンおよびドナルド・トランプ両陣営に対するこれら3カ国からのサイバー攻撃が発覚したことを受け、共和党と民主党はすぐに手を打ち、それぞれの主張を展開した。

ロシアがまたトランプに肩入れしているという疑惑をなんとか払拭したいホワイトハウスは、情報当局の分析結果を利用し、バイデンは中国にとって望ましい候補者だと主張。これに対して、ロシアが2016年大統領選に介入したことを今も根に持っている民主党は、トランプと顧問たちがロシアから国民の目を逸らさせるために、中国による介入を誇張していると反論している。

だがいずれの陣営も、中国による干渉の問題にまともに向き合っていない。

中国政府はフェイスブックやツイッターが誕生する何年も前から中国のイメージアップを狙い、また自分たちが慎重に作り上げてきた国際的なイメージを守るためにあらゆる手を打ってきた。手始めは、個人レベルでの交流や、大きな影響力を持つ米実業家や意思決定者たちとの関係構築といった比較的無害な方法だ。その後は手段をエスカレートさせ、ニセ情報の流布や情報統制、報復の脅しや秘密工作を展開してきた。

背景にある大きな野望

彼らの目標は、中国企業の利益確保や、特定の候補者・政党の後押しのもっとずっと先にある。アメリカをはじめとする民主国家の政治を、中国政府にとって有利な方向に導くことが一番の狙いだ。

公衆衛生や商業からグローバル・ガバナンス、さらには人権に至るまでほぼ全ての問題について影響力を持ちたがる中国の狙いはかなりの成功をおさめている。天安門事件やチベット自治区、新彊ウイグル自治区での非人道的な行為もなかったことのように振る舞っている。

だが新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)で、流れは大きく変わった。中国政府が密かに諸外国の政治家や実業家、国民をあからさまに威圧するやり方が、国際社会で不評を買った。「中国政府に逆らうならリスクを覚悟せよ」という彼らの本心が露呈したのだ。

中国政府のこの高圧的な姿勢に、多くの国が一様に反発した。だがアメリカでは、中国による大統領選への介入工作の問題をめぐって政治家たちの意見が割れている。その主な理由は、理論上、ロシアの乱暴な策略に比べれば中国の作戦の方が「脅威が少ない」ように思えるからだ。もちろん現実には、ロシアと中国、どちらの国がもたらす脅威についても重要なのは戦術ではなく「最終的な狙い」であり、いずれの国も、米公的機関や政府の信用を失墜させることが最終目標であることに変わりはない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン大統領と外相搭乗のヘリが山中で不時着、安否不

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中