最新記事

世界経済

2020年の世界経済が抱える4つの時限爆弾

A Rosy Outlook, But With Big Downside Risks

2020年1月7日(火)18時00分
キース・ジョンソン

問題はまだある。イギリスは1月末で正式にEUから離脱するが、真に困難なプロセスが始まるのはこれからだ。2020年末までに自由貿易協定をまとめなければならないが、EU側は年内決着はほぼ不可能とみている。関税率や規制基準などの重要な問題で合意できなければ、イギリスのEU離脱問題(とそれに伴う投資や事業、消費者信頼感や経済成長などの問題)は再び崖っぷちに追い詰められることになりかねない。

事態をさらに複雑にする可能性があるのは、アメリカがイギリスと独自に自由貿易協定の交渉を行いたいと考えていることだ。これは経済的な規制という点でイギリスをこれまで以上にアメリカ寄りに引き寄せることを意味する。そうなればイギリスがEUと具体的な協定を結ぶのはますます難しくなる。

大国間の貿易関係の緊張が今後も高まり、WTO(世界貿易機関)が実質的に無力化されれば、世界経済は各国が恣意的に関税を課していた時代に回帰しかねない。高関税が世界の新常態になれば、その影響は深刻だと世界銀行も警告している。

中国経済

中国に関してはいくつか懸念がある。なにしろ規模が大きいから、それが世界経済に及ぼす影響も深刻だ。

まず、中国経済の減速は明らかだ。その原因はアメリカの関税による打撃だけではない。気になるのは、既に30年ぶりの低水準にある成長率だ。IMFは今年の中国のGDP成長率をわずか5.8%と予測しているが、これは近年の実績を大きく下回る。一方、世界銀行は5.9%の成長率を見込んでいる。

中国政府はこれまで、財政出動による景気刺激策で人工的に成長率を維持してきた。しかし結果として企業や地方政府が膨大な債務を抱え込むことになり、これが中国経済の足を引っ張っている。財政出動は短期的に功を奏するかもしれないが、収益性も生産性も低い企業を生き残らせるリスクがあり、将来の成長に悪影響を与えるだろう。

中国経済が大幅に減速した場合、他の諸国、とりわけ世界経済の牽引役と期待される多くの途上国に負の影響が表れるだろう。

「イギリスのEU離脱後に予想される混乱に比べれば、中国経済の急激な失速のリスクは高くない。だがそれが起きた場合は、他国の経済や世界全体に大きな影響を与えるだろう。中国は他の経済大国と密接に結び付いているからだ」と、ハーバード大学の中国専門家ジュリアン・ゲワーツは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

11.5兆ドル規模の投資家団体、食品大手にタンパク

ビジネス

BNPパリバ、第3四半期利益は予想未達 統合費用と

ビジネス

日経平均は3日ぶり反落、前日高後の利益確定売りが優

ワールド

BAT、米で未承認電子たばこ試験販売中止 FDAが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 6
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 7
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 8
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 9
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中