フランスの学生が大学を占拠してまで「成績による選別」に反対する理由
パリ第6大学を占拠した学生たち Benoit Tessier-REUTERS
<各地で大学占拠が頻発したのは、大学入学者の「成績による選別」に反対するためだという。いったいどういうこと?>
デモは民主主義の重要な一部だといって日常茶飯事のパリだが、ここ数年、全身黒づくめで顔も隠した一団があらわれて、機動隊と市街戦をして、手当たり次第に店などぶち壊し、ついでにデモもぶち壊すようになってしまった。
今年のメーデーでも、労働者のデモがあっという間に乗っ取られた。
黒づくめの集団は、アメリカやドイツでも登場した「Black Blocs」を名乗る正体不明の極左過激集団である。
さて、この3月からフランス各地で学生らによる大学占拠が頻発したが、それとこの「壊し屋」は関係ない。
大学占拠の争点は、マクロン政権の教育改革で新たに作られた「学生の進路と成功法」による、入学時の選別の導入である。フランスでは「バカロレア」(大学入学資格)があればどの大学、学部にも入れるのが原則だった。だが新法では、入学希望者が定員をオーバーした場合、学生の成績によって選別し、希望のコースに入れなくしようというのだ。
選別は、教育の平等の精神に反すると学生側は主張する。所得や人種で差別されないのと同じく、成績にも関係なく誰にでもが学ぶ権利があるべきだ、というのだ。
理想論のようにも思えるが、ここには現代社会が抱える問題があるのも事実だ。
大学は"誰でも"入れた
フランスの高等教育は大学と「グランゼコール」(大学校)の2本立てとなっている。グランゼコールはもともとナポレオンが国家エリートを養成するためにつくったもので、民間企業に就職してもいきなり課長クラスから始まる。バカロレアのあとさらに難関の入学試験があり、高校で成績優秀な者が準備コースか大学を経て入る。
一方、大学には誰でも入れる。日本では、高校卒業と大学入学や職業の資格取得は別物だが、フランスでは、ただの高校卒業というのは存在せず、何らかの資格を取ることで卒業となる。バカロレアはその一つで、大学に入れるという資格である。だから、バカロレア取得者が好きなところに入学できるのは当たり前だ。
昔はそれでよかった。1965年には、バカロレア取得までいく者は同じ世代のわずかに10%だった。この中には高級官僚や大会社の幹部をめざすグランゼコールや美術学校、ビジネススクールなど専門学校へ行く人たちもいるから、大学は実学と距離を置いた学問の府、ということで十分だった。
ところが、バカロレア取得者の数はいまや3倍以上に増えた。グランゼコールや専門学校の定員は増えないから、その人たちが大学になだれこんでくる。
この人たちは、必ずしも学問の探究のために大学に入るわけではない。社会的格差を乗り越えるためだ。社会の側でも知的労働者に対する需要は増加した。そこで大学側も、修士コースをMBAに似たものにするなど機構改革を行い、実学の要求に応えるようになった。