最新記事

欧州

ドイツ極右政党躍進の意外すぎる立役者

2017年10月16日(月)11時45分
ポール・ホッケノス(ジャーナリスト)

一見ポピュリストに敬遠されそうな元投資銀行家で同性愛者のワイデル(左) Fabrizio Bensch-REUTERS

<欧州各国の国粋主義の拡大に続き、排外主義を掲げるAfDが初の国政進出。その「顔」は異色の経歴を持つ38歳の女性だ>

9月24日のドイツ連邦議会選挙で、国政に外国人嫌いの民族主義政党が戻ってきた。ドイツのための選択肢(AfD)だ。いわゆる極右政党だが、その躍進を支えた功労者は38歳の女性。元投資銀行勤務で同性愛者のアリス・ワイデルだ。

AfDは今回の選挙で約13%の票を獲得し、94議席を確保した。戦後の混乱期を除けば、露骨に排外的な国粋主義を掲げる政党がドイツ連邦議会に進出したのは初めてのことだ。もしもアンゲラ・メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)と第2党の社会民主党(SPD)が再び大連立を組めば、AfDは栄えある野党第1党の座を手に入れる。

AfDを含め、ヨーロッパの極右勢力はたいてい移民の流入と欧州連合(EU)の介入を嫌い、権威主義的で露骨な民族主義を掲げている。こうした勢力は各地で支持を増やしており、ヨーロッパの戦後秩序に真の脅威をもたらしている。その脅威が、ついにドイツの国政にも及んだわけだ。

もちろん、AfDが今回の選挙で大勝利を収めた責任の一端はメルケルにある。選挙戦で彼女と与党陣営が移民問題を封印したおかげで、AfDは誰にも邪魔されず、好き勝手な主張を繰り広げることができた。

では、AfDを国政進出に導いたアリス・ワイデルとは何者なのか。これまでは無名の存在だったが、彼女は今回、アレクサンダー・ガウラントと共に筆頭候補に名を連ね、選挙活動の先頭に立った。

ガウラントは民衆をあおり立てる典型的なポピュリストと言えそうだが、ワイデルは違う。自信満々の金融コンサルタントであり、国粋主義のポピュリストが忌み嫌うグローバリズムの申し子でもある。しかし、そんな彼女がAfDで重宝されるのには訳がある。

ワイデルは旧西ドイツで生まれ育ち、大学卒業後はゴールドマン・サックスに入社。中国に留学し、中国の銀行で働いた経歴も持つ。一方でCDU系のコンラッド・アデナウアー財団から奨学金を得て、経済学の博士課程を修了してもいる。その後も何度か転職を繰り返したが、13年に創設間もないAfDに参加した。

上品なポピュリズム像

上等なスーツを着て自由市場を愛する金融ウーマンはAfDに似合わない。同党の支持者には男性が圧倒的に多く、たいていは30歳以上で、一定の教育を受けた中間所得層だ。

党の地盤はフランクフルトのような西部の国際金融都市ではなく、最も困窮している東部の各州。しかしワイデルには、党のイメージにそぐわない自らの経歴を隠す必要はなかった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中