最新記事

北朝鮮危機

米軍は北朝鮮を攻撃できない

2017年10月10日(火)14時00分
フレッド・カプラン(スレート誌コラム二スト)

現政権のドナルド・トランプとジェームズ・マティス国防長官、そして軍幹部も同じ道をたどる可能性が高い。

アメリカには北朝鮮への「軍事オプション」があると述べたマティスも、そのオプションが適切かどうかには触れていない。

ロサンゼルス・タイムズの報道によれば、戦争勃発を想定した最近の演習でも、69年の判断が正しかったことが証明されている。つまり、どんなに小さな小競り合いでも制御不能な戦争に発展する事態を避け難いということだ。

北朝鮮との戦争になれば、核兵器を使用せずとも韓国での死者は1日2万人に達する。国防総省はそう想定しているようだ。マティスをはじめ、国務長官のレックス・ティラーソンも国家安全保障担当のH・R・マクマスター大統領補佐官も、武力行使の可能性は「排除しない」としつつも、外交的解決の必要性を強調している。

ただしトランプ自身は、そんなニュアンスに無頓着なようだ。北朝鮮を「完全に破壊」する可能性について言及したかと思えば、ツイッターで金正恩(キム・ジョンウン)を「小さなロケットマン」と呼ぶなど、やりたい放題だ。ワシントン・ポストによれば、北朝鮮の外交官はトランプと側近たちの発言がこれほど食い違う理由を知りたくて、在米のアジア問題専門家に電話をかけまくっているという。

だが困惑しているのは北朝鮮だけではない。トランプ政権の高官たちも自分のボスの本心をつかめずにいる。報道によれば、国連総会での演説前に情報機関の幹部は大統領に対し、金正恩への個人攻撃をすれば外交的解決の道が閉ざされると進言していた。それでも演壇に立ったトランプは、原稿にはない「ロケットマン」や「完全に破壊」という言葉を吐き出した(あのとき首席補佐官のジョン・ケリーは頭を抱えていた)。

冷静さこそが抑止力

これこそが今ここにある危機だ。筆者は以前に、北朝鮮に(アメリカとその同盟国に対する)核ミサイル攻撃を思いとどまらせるのは簡単だと書いた。何しろアメリカには何千発もの核弾頭があるし、いかに金正恩が予測不能でも自殺願望の持ち主とは思えないからだ。

しかし、これには条件がある。アメリカが抑止力の誇示と同盟国を守る決意の表明において常に冷静さを失わず、ぶれることなく一貫した姿勢を保つことだ。

残念ながら、今のアメリカ大統領には冷静さも一貫性も欠けている。しかも現場に外交の担い手がいない。駐韓国大使は決まらないし、東アジア・太平洋地域担当の国務次官補や国防次官補も空席のままだ。

そんな状態で、自己顕示欲の塊で引くことを知らない2人の指導者が罵詈雑言の応酬を続けていたらどうなるか。些細な小競り合いや誤解、あるいは警報の誤作動で戦闘が始まれば、そのまま壊滅的な戦争に拡大しかねない。

[本誌2017年10月10日号掲載]

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

© 2017, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中