最新記事

朝鮮半島

ロシアが北朝鮮の核を恐れない理由

2017年7月18日(火)18時00分
クリス・ミラー(米イエール大学グランド・ストラテジーコース副所長)

北朝鮮は韓国の首都ソウルを射程に収める大量の通常兵器はもちろん、核兵器も保有するため、トランプが米軍による軍事攻撃をちらつかせる行為は北朝鮮による脅威と同じくらい危険だと、ロシアは考えている。ロシアの見方では、制裁は核実験やさらなる開発の凍結に一定の役割を果たすかもしれないが、北朝鮮が核開発を続ける背景にある論理は変えそうにない。すでに北朝鮮は深刻な食糧不足や経済が壊滅した状況でも存続可能だと証明した。ロシアの。アナリストはアメリカ側に問いかける。なぜ経済制裁を強化すれば、北朝鮮にとってアメリカに対する唯一鉄壁の防衛力である核兵器の開発を手放すよう北を説得できると思うのかと。

その問いかけは、アメリカが行動するうえで重荷になる。アメリカは朝鮮戦争で平和条約を締結しておらず、軍事的に北朝鮮を脅し続けているとロシアは指摘する。先日の北朝鮮によるミサイル発射実験後、プーチンは北朝鮮への批判を避け、北朝鮮とアメリカがともに方針を転換するよう呼び掛けた中国の立場を支持した。

ロシアはアメリカを責め続ける

アメリカは北朝鮮に対して核開発をやめるよう圧力をかける意思も能力もない中国に苛立ち、新たな選択肢を模索している。アメリカとしては、このまま北朝鮮に米本土を射程に収めるミサイルの開発や実験を続けさせる事態は避けたい。トランプが今年1月、北朝鮮が核弾頭を搭載したICBMで米本土を攻撃する能力を持つ可能性はないと約束した手前もある。米軍が北朝鮮の核関連施設を攻撃すれば、韓国や日本を巻き込む大規模な戦争に発展する危険性がある。

もしアメリカが北朝鮮の核開発を容認し体制存続に保障を与えるなど、北朝鮮政策を穏健なものにしていたら、ロシアも他国と足並みを揃え、北朝鮮に核・ミサイルの開発や実験をやめさせるよう圧力をかけたかもしれない。だがアメリカが北朝鮮への軍事攻撃や体制転覆を選択肢として残している限り、ロシアは金正恩だけでなくトランプにも責任を負わせ続けるだろう。

(翻訳:河原里香)

From Foreign Policy Magazine



【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!

ご登録(無料)はこちらから=>>


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エヌビディア「H20」は安全保障上の懸念=中国国営

ワールド

中国、米にAI向け半導体規制の緩和要求 貿易合意の

ワールド

北朝鮮、軍事境界線付近の拡声器撤去を開始=韓国軍

ワールド

米、金地金への関税明確化へ 近く大統領令=当局者
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客を30分間も足止めした「予想外の犯人」にネット騒然
  • 2
    なぜ「あなたの筋トレ」は伸び悩んでいるのか?...筋肉は「光る電球」だった
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中…
  • 5
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 6
    伝説的バンドKISSのジーン・シモンズ...75歳の彼の意…
  • 7
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 8
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 9
    60代、70代でも性欲は衰えない!高齢者の性行為が長…
  • 10
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 8
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 9
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 10
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中