最新記事

中韓関係

韓国を飲み込んだ中国--THAAD追加配備中断

2017年6月8日(木)20時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

5日には、韓国大統領府はTHAAD4基の韓国への追加搬入が大統領府に報告されなかった問題で、国防省の魏昇鎬(ウィ・スンホ)国防政策室長が、もともと報告書の草案にあった関連内容を削除するよう指示し隠蔽を図ったとする調査結果を発表している。これもまた、THAADの追加配備を中断する口実の一つになっている。

そもそも「親中、親北、THAAD反対」そして「反日」の文在寅氏が大統領に当選したのは、最後の大統領選テレビ討論会の直前に、トランプ大統領が「THAADの配備経費を韓国が払え」などと言ったことが直接の原因だ。

もちろん文在寅はパククネ元大統領の疑惑追及をしてきたリーダー格の人物なので、韓国国民は文在寅氏を支援したであろう。しかし、アメリカが米韓軍事合同演習で北朝鮮を包囲し始め、北朝鮮がミサイル発射で応戦し始めると、「北朝鮮をやっつけろ」という声が強まり、対立候補に有利に働き始めていた。

だというのに、大統領選の最後のテレビ討論という最も重要なタイミングでトランプ大統領がTHAAD配備経費の負担を韓国に要求するツイッターなどを発信するから、文在寅氏はテレビ討論で対立候補を圧倒し、勝利してしまった。

在韓の朝鮮族中国人による「成りすまし韓国人」まで動員して文在寅氏を応援していた中国としては、トランプのこの突拍子もないツイッターは、まさにオウンゴールで、中国は何もしないで得点をしてしまったのである。

あとはチャイナ・マネーという釣り糸を垂らせばいいだけのことだ。

韓国はいとも簡単に引っかかった。

それも、完全にアメリカと喧嘩する訳にもいかないので、THAAD2基は既存のものとして受け入れ、残り2基はほぼ無期延期するという形で「中国のために」中断したわけだ。

米中露の挟間で

ふつうに考えれば、北朝鮮が絶え間なくミサイルを発射しているわけだから、それを迎撃するための防衛ミサイルが数多く韓国に配備されればされるほど「安心だ」という心理が働くとは思うが、韓国民は必ずしもそうではないようだ。

中国の主張に従えば、アメリカがアジアから手を引かず、特に在韓米軍を撤退させないので北朝鮮が挑発し、韓国民が危険にさらされるという論理になる。その結果、1000キロ以上の探知距離を持ち、中国やロシアの軍事配置を偵察できるXバンドレーダーを配備されたのでは困る。したがって中国は断固、THAADの韓国配備に反対している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中