最新記事

アメリカ政治

トランプのロシア疑惑隠し?FBI長官の解任で揺らぐ捜査の独立

2017年5月10日(水)18時24分
イリアス・グロール

ロシア捜査が原因? トランプにFBIの長官を突如解任されたコミー Kevin Lamarque-REUTERS

<トランプが突然、FBIのコミー長官を解任し、ワシントンに衝撃が走った。コミーは、昨年の大統領選に対するロシアの関与とトランプ陣営の関係についての捜査を指揮していたからだ。FBIの独立が危うくなりかねず、ウォーターゲート事件当時のニクソンによる「虐殺」にもなぞらえられている>

ドナルド・トランプ大統領は5月9日、ジェームズ・コミーFBI長官を解任した。FBIは現在、2016年の大統領選挙を有利に運ぶべく、トランプと彼の側近たちがロシアの工作員と共謀したという疑惑をめぐって大規模な捜査を行っている。

「FBIは我が国で最も尊重されている機関のひとつだ。今日という日は、法執行機関の輝かしい業績の新たな始まりを告げる一日になるだろう」とトランプは声明で述べた。

同声明でトランプは、今回の決断はジェフ・セッションズ司法長官とロッド・ローゼンスタイン司法副長官の進言によるものだと述べた。セッションズに宛てた意見書のなかでローゼンスタインは、ヒラリー・クリントンが国務長官だったときに私用メールアドレスを公務に使っていた件に関し、刑事訴追せずに捜査を終了すべきだと記者会見を開いて発言したコミーの決断は、FBIに対する国民の信頼を傷つけたと述べた。

【参考記事】クリントンの私用メール問題はまだ終わらない

「コミーはメディアに対し、個人的見解にしかすぎない主張を、裁判も経ず、あたかも事実であるかのように話した」とローゼンスタインは同意見書のなかで述べている。「連邦検事および捜査員がやってはならないことの教科書的な事例だ」

まるでニクソン「虐殺」の再現

大統領にはFBI長官を解任する権限があるが、その一方で今回の解任劇は、アメリカで最強の法執行機関の独立性に疑問を投げかける。FBIは現在、2016年の大統領選において、選挙運動にロシア政府が干渉したとする疑惑に関して広範な捜査を行っている。

【参考記事】トランプとロシア連携?──FBI長官が「捜査中」と認めた公聴会の闇

この捜査には、トランプの側近たちがロシア政府の工作員と共謀して、民主党およびクリントンの選挙参謀のコンピューターシステムから盗んだ文書や電子メールをリークしたのかどうかをめぐる調査も含まれている。

コミーに宛てた手紙のなかでトランプは、トランプが捜査対象ではないとコミーが3度にわたり断言したことに対して謝辞を述べた。「3件の別々の案件に関して、私が捜査対象ではないと知らせてくれたことには大いに感謝するが、貴殿にはFBIを率いる力が欠けているという司法省の判断には私も同意する」

トランプを批判する者たちはすぐさま、今回のコミーの解任を、司法省の歴史のなかでも最も暗い出来事のひとつになぞらえた。1973年、ニクソン大統領がウォーターゲート事件を調査していた特別検察官を解任し、司法長官と司法副長官に辞職を強要した「土曜日の夜の虐殺」だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国向け銅輸出加速へ 関税前に駆け込み=ゴールドマ

ビジネス

アングル:トランプ政権「投資誘致」の実態、バイデン

ワールド

リトアニアとフィンランド、対人地雷生産へ ウクライ

ビジネス

テマセク、運用資産が過去最高 米国リスクは峠越えた
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 9
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中