最新記事

北朝鮮

25日に何も起こらなくても、北朝鮮「核危機」は再発する

2017年4月24日(月)13時05分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)

なによりも今回の事態を通じて、金正恩が「やっぱり米国は攻めてこられない」という自信を深めるかもしれない。

金正日時代と金正恩時代における核戦略には大きな違いがある。父・金正日は、見返りがあれば核とミサイルを放棄することを想定していただろう。しかし、金正恩は米国を攻撃可能な「核武装国家」を目指している。核弾頭を搭載し、米本土に着弾可能な核ミサイルが完成すれば、今以上に米国は北朝鮮に手出しできなくなる。そうなれば、金正恩体制が続く限り、北朝鮮は日本に対して脅威を与え続ける国家となりうる。

断言するが、金正恩が核武装国を目指す限り、同じ事態は来年、または数年後に再発するだろう。そして、時が経てば経つほど金正恩にとって有利な環境が作られていく。この負の連鎖を断ち切るためには、理想論かもしれないが、金正恩体制が変革するしかない。

北朝鮮は、頂点に立つ指導者が全てを決定するという超独裁国家である。その姿勢を変えるためには、内部からの変革の要求とそれをサポートする外部からの働きかけが必要だ。

現在も、北朝鮮の民主化を目指す韓国の複数のNGOが、この命題に果敢にチャレンジしている。北朝鮮民衆の意識変化を促すために、硬軟織り交ぜた情報を北朝鮮国内へ流入させるなどの情報戦も展開している。その結果、多くの北朝鮮国民が海外の情報に接しながら、金正恩体制が極めてマズい方向へ進んでいるということをうすうす感じつつある。

(参考記事:「いま米軍が撃てば金正恩たちは全滅するのに」北朝鮮庶民のキツい本音

しかし、その意識変化が政治的な動きへ発展するにはまだまだ時間がかかるだろう。こうした動きに周辺国、とりわけ日米韓が本気で取り組むことができるのか。それとも何年かに一度のサイクルで発生する北朝鮮クライシスを甘んじて受け入れるのか。

国際社会、とりわけ日本、米国、そして韓国は、時が経てば経つほど、ソフト・ランディングの可能性が低くなっている状況を冷静に認める時が来ている。そのうえで、脅威であり続ける北朝鮮にどう対峙するのか、本気で考えなければならない。

【ニューストピックス】朝鮮半島 危機の構図

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「戦争の恐怖」から方向転換を、初外遊のローマ教皇が

ワールド

米ブラジル首脳が電話会談、貿易や犯罪組織対策など協

ワールド

米議員、トランプ政権のベネズエラ船攻撃巡り新たな決

ワールド

トランプ氏、バイデン氏の「自動署名文書」を全面無効
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 6
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中