最新記事

イラク

ISISの最大拠点モスル、米軍の空爆で民間人の犠牲増?

2017年3月28日(火)17時40分
ポール・マクリーリー

モスルの住民はISISに「人間の盾」として使われている Goran Tomasevic-REUTERS

<多数の民間人が犠牲になっても、米軍は民間人を巻き添えにするISIS掃討作戦を続けるつもりだ>

3月半ばから2週間でイラク北部モスルとシリアで市民100人以上が死亡したとみられる空爆について、米軍主導の有志連合が事実関係を明らかにするため複数の調査に着手している。

今はテロ組織ISIS(自称イスラム国)からのモスル奪還に向けて有志連合が空爆を強化し、アメリカが支援する民兵部隊もいよいよISISが事実上の「首都」とするシリア北部ラッカに迫っている。気になるのは、有志連合の攻勢と軌を一にするかのように、民間人が犠牲になったという報告が増えていることだ。今年に入って米軍の司令官はより自由な裁量を与えられ、ホワイトハウスの承認なしに空爆実施の決定を下せるようになった。

モスルで最大級の空爆があったのは3月17日。多数の民間人がとどまる西部で、ISIS戦闘員の潜伏先とみなす地点を空爆した。米軍は、爆撃された建物の周辺で空爆を実施したことを認めた。ソーシャルメディアに投稿された写真やビデオを見ると、建物は完全に破壊されており、200人規模の市民が犠牲になったとされる。

【参考記事】モスル西部奪回作戦、イラク軍は地獄の市街戦へ

モスルに残る民間人50万人

米中央軍のジョン・トーマス報道官は、市民が住んでいる建物を本当に米軍が爆撃したのか否かを判断するため、米政府の調査チームが3月17日前後にモスルで実施した空爆を記録した数百時間超のデータを解析中だと説明した。

イラク軍は26日、標的になった建物にはISISによって爆弾が仕掛けられており、有志連合の空爆による破壊だと示す証拠はないとした。住民によると、がれきの下から少なくとも160人の遺体が回収されたという。

もし米軍による空爆と確認されれば、2014年に米軍がISIS掃討作戦を開始して以来、最悪の犠牲者数だ。米国防総省がこれまでの作戦で220人の民間人が死亡したと認めるが、人権団体などはさらに数百人以上が殺害されたと主張する。

【参考記事】警官の集団墓地、石打ち、化学兵器──ISIS最大拠点モスルの惨状

モスル西部では戦闘から逃れるため、ここ数週間で約20万人の市民が脱出した。だが少なくとも50万人は市内にとり残されており、民家の間を縫って繰り広げられる熾烈な戦闘のなかで身動きができずにいる。作戦開始にあたり、イラク政府は市民に対し、超満員の難民キャンプに避難せず、家にとどまるよう呼びかけた。その決定が、数十万人の市民の命を危険にさらしている。

【参考記事】ISISのプロパガンダと外国戦闘員が急減、軍事作戦効果

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中