最新記事

中国

「くだらない」中国版紅白を必死に見る人たち

2017年2月4日(土)12時02分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

CCTV春晚-YouTube

<旧暦大晦日に放送され、ニコニコ生放送でも中継された「中国版紅白歌合戦」こと「春晩」だが、今や中国の若者には人気がない。それでも、筆者を含む中国ウォッチャーには必見。今年の春晩にも中国政治を理解するヒントが......>

「春晩」をご存じだろうか。

正式名称は「春節聯歓晩会」、中国の旧暦大晦日に放送される特別番組だ。中国版紅白歌合戦と紹介されることも多い。現在では地方局も特番を放送しているが、通常は中国中央電子台(CCTV)の番組を指す。

5時間にわたり歌やコント、漫才が繰り広げられ、再放送を合わせると視聴者数は10億人を超えるとされる。日本でも昨年から動画サイト「ニコニコ生放送」で中継されるようになったので、ごらんになった方もいるのではないか。

私は仕事の関係でここ数年、長丁場の番組をほぼすべて見ている。それどころか、事前に出演者とプログラムをチェックしたり、関連ニュースを収集したりと面倒くさい作業が待っているのだが、事前情報を集めているとちょっと面白いことがわかる。なんと、放送ぎりぎりまで演目や出演者が変わり続けるのだ。

たとえば今年、韓流アイドルグループ・EXOの元メンバー、ルハンは、冒頭の少年少女のダンスで出演する予定だったが、後半の出演に変更された。春晩は本番の1週間以上前からリハーサルを繰り返しているが、偉い人が見ては「あーでもないこーでもない」と口をはさんでひっくり返していくのだという。何度もリハーサルをしているのに本番台本が完成するのは当日になってから。放送スタッフの苦労がしのばれる。

などなど春晩の話をしていると、驚くのが若い中国の知人だ。「あんなくだらない番組を見ているの?」「おれなんか物心ついてから見たことないぜ」と言いたい放題。そのくせ、「今年の紅白は白組がすばらしかったですね」などと言ってくるからたちが悪い。見ていないというと「国民的番組なのに?」とおおげさに驚いてみせる。

【参考記事】大みそかの長寿番組が映し出す日本の両極

日本の紅白も中国の春晩も状況はよく似ていて、大晦日の一家団欒中にだらだら流し見するもの。一昔前なら大晦日は家族親戚が集まってえんえん飲み食いしていたので番組を目にする機会も多かったが、最近では年越しまで宴会を続けるような家庭も減り、自然と見ない人が増えてきたというわけだ。

日本でも中国でも、宴会どころか、旅行にでかけて実家にいないというパターンも今では少なくない。今年の旧正月はのべ600万人もの中国人が出国したと推計されている。「年越しの瞬間に家族が集まらないなんて! 最近の若人は心を失ってしまった」と嘆く記事が出るところまで毎年の恒例行事だが、あと数年もするとあまりに当たり前になりすぎてこうした嘆き記事も消失してしまうかもしれない。

かつては春晩のコントから流行語が生まれることもしばしばだったが、最近ではそういうこともなくなった。影響力が失われている証拠だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシア、中国へのガス供給拡大へ 新パイプライン建設

ワールド

中ロ首脳、軍事パレード控え北京で会談 「動乱の枢軸

ワールド

自民党の森山幹事長が辞意、参院選敗北の責任 石破首

ワールド

経済財政諮問会議の議員としての登用「適時適切に対応
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 2
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあるがなくさないでほしい
  • 3
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シャロン・ストーンの過激衣装にネット衝撃
  • 4
    映画『K-POPガールズ! デーモン・ハンターズ』が世…
  • 5
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 6
    BAT新型加熱式たばこ「glo Hilo」シリーズ全国展開へ…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 3
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 8
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中