最新記事

フランス

再挑戦サルコジのトランプ流戦略

2016年9月17日(土)09時45分
ドミニク・モイジ(パリ政治学院教授)

 それでも、ブルキニ禁止を支持する国民は多い。先日、筆者があるビーチに出掛けたときのこと。そこはブルキニを禁止していない町だったが、ブルキニ姿のイスラム教徒女性を見て、侮蔑的な態度を取る人たちがいた。ある若い男性はこう言った。「全員撃ち殺してやりたい」

 サルコジは国民感情をよく理解している。先頃、大統領選に向けた最初の本格的な演説でも、ブルキニの全面禁止を打ち出した。そして、移民とマイノリティーと左派がフランスのアイデンティティーを破壊しかねないと言い切った。国民の不安と怒りの感情を自分への支持につなげようという思惑だ。

 この点は、米大統領選の共和党大統領候補ドナルド・トランプに通じるものがある。トランプも、衰退しつつあるかつての大国を救う救世主、と自分を位置付け、怒れる有権者の支持を集めている。

 しかし、サルコジがあおろうとしている不安ゆえに、国民は彼を大統領に選ぶことに及び腰になる可能性もある。強い不安にさいなまれている国が切実に必要としているのは、信頼できてブレない指導者だ。騒々しく、神経質なサルコジは不適任と見なされかねない。

【参考記事】トランプがイスラム過激派対策で公約した「思想審査」がオランダにあった

 国民の評価は遠からず明らかになる。11月には、共和党の大統領候補を選ぶ予備選が実施される。オランドの支持率がどん底状態であることを考えると、共和党大統領候補の座を手にした人物が次の大統領になるという見方が一般的だ。

 今のところ世論調査では、ジュペがまだリードを保っている。しかし、国民がジュペの「幸せなアイデンティティー」を拒絶し、サルコジの暗い国家像を選ぶ可能性はある。

 それでも筆者は、次期大統領の最有力候補はジュペだと思っている。サルコジがトランプだとすれば、年齢と経歴の面でヒラリー・クリントンに似ているのがジュペだ。政権の奪取より、政権の運営に関して経験を積んできた人物と言っていい。

 とはいえ、まだ分からない。恐怖は強力な武器だ。そして、サルコジはその武器を使おうとしている。

© Project Syndicate

[2016年9月13日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド東部で4月の最高気温更新、熱波で9人死亡 総

ビジネス

国債買入の調整は時間かけて、能動的な政策手段とせず

ビジネス

カナダ中銀、利下げ「近づく」と総裁 物価安定の進展

ワールド

トランプ氏、コロンビア大のデモ隊強制排除でNY市警
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中