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ドイツ「最強」神話の崩壊

2016年8月17日(水)16時00分
ヤッシャ・ムンク

 その日、ショッピングセンターの隣に住む建設作業員のトマス・ザルベイは、自宅バルコニーからゾンボリを罵って、銃撃の手を緩めさせようとした。

「おまえなんか首を切り落とされちまえ」と、ザルベイが叫ぶ。

「トルコ人は黙ってろ」と、ゾンボリ。

「カナーケンは黙ってろ」と、ザルベイがさらに返す。

 するとゾンボリは、「俺はドイツ人だ」と答えたという。

【参考記事】国民投票とポピュリスト政党、イタリアの危険過ぎるアンサンブル

 ゾンボリは事件を起こした後、現場から離れた場所で自殺したとみられている。ドイツ人として外国人に対する極右テロを起こし、自らは尊厳ある死を選んだつもりらしい。だが、ドイツ国内では、この国になじめなかった移民がドイツ人に鬱憤を晴らした事件だと理解されている。

 だから、この事件がAfDの打撃になることもなさそうだ。ザルベイでさえ、ある新聞とのインタビューで、事件の遠因をつくったのはメルケルだという趣旨の発言をしている。「メルケルはこの国に誰でも受け入れる。『私たちにはできる。できるはずだ』と言ってね」

事実に目をつぶるメディア

 『服従』の主人公は、フランスの新聞がギリシャ神話のカサンドラのようにヨーロッパの政治危機を予言していた、と語る友人を笑う。「カサンドラは、必ず現実になる不幸な予言を示したが、中道左派(の新聞)がやっているのはトロイア市民のように(カサンドラの予言に)目をつぶることだ」

 どうやらウエルベックは、われこそはカサンドラだと思っているようだ。確かにこれまでのところ、彼の「予言」が当たっている部分はある。しかしさすがにフランスにイスラム政権が誕生するとは思えない。

 ドイツでもヨーロッパ全体でも、イスラム教徒の移民にどう対処するべきかという議論はピークに達しつつある。しかしその議論に勝利するのは、人々に服従を要求する者ではなく、人々を統率する者だ。

From Foreign Policy Magazine

[2016年8月 9日号掲載]

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