最新記事

【2016米大統領選】最新現地リポート

トランプ独走態勢が崩れ、複雑化する共和党予備選

2016年4月7日(木)11時45分
冷泉彰彦(在米ジャーナリスト)

 一方で、共和党の方はますます「異常事態」となってきた。テッド・クルーズ候補の勝利は下馬評通りだが、問題は得票率だ。クルーズ48.3%、トランプ35.1%、ケーシック14.1%という数字は、明らかにトランプ「失速」の兆候を示している。

 また、今回の敗北で、ドナルド・トランプ候補としては「7月の党大会以前に代議員数の過半数となる『マジックナンバー1237』に到達」する可能性が少なくなってきた。

 純粋に数字の問題として見ても、トランプは、以降の予備選で残る代議員数の55%を獲得しないと「マジックナンバー」には届かないが、一部に「勝者総取りでない」州があること、ニューヨーク、ペンシルベニア、カリフォルニア、ニュージャージーなどを全勝することはほぼ不可能であることを考えると、余程の「勢いの再建」ができないと難しい。

 共和党では「トランプが1位だが過半数は取れない」のが濃厚になってきた中で、党大会の現場で「代議員の自由投票」による候補指名というドラマが起きる可能性が濃厚となってきた。なおこうした「自由投票による候補指名」については、今回は「コンテステッド・コンベンション[contested convention]」という言い方が主流になって来ている。

【参考記事】トランプ旋風を生んだ低俗リアリティ番組「アプレンティス」

 こうした動きに対して、トランプ陣営は激しく反発しているが、その陣営内で不協和音が生じているという報道もある。予備選も最終段階を迎え、「そろそろ威風堂々と大統領らしい言動に変えた方がいい」という意向がトランプの家族の側からは出ている一方で、選対の方では「暴言を含むアウトサイダー的なキャラクターは変えられない」と主張していて、内部に確執が生まれているのだという。

 そうした報道自体が、共和党の全国委員会の意向を受けた意図的なものという可能性もあるが、いずれにしても現時点では明らかにトランプの勢いは鈍ってきた。では、今回勝利したクルーズはと言えば、勝ったことで「自分こそ統一候補にふさわしい」と自信満々だ。だが共和党の全国レベルとしては、保守派「だけ」に強いクルーズは「本選で勝てる候補」とはまったく思われていない。

 と言うことは、共和党の全国委員会は、「トランプ降ろし」と同時に「クルーズ降ろし」もしなくてはならないわけで、今後の党内抗争がより複雑化するのは避けられないだろう。ウィスコンシン州の結果で、これまでのトランプの独走態勢は崩れ、予備選は最終局面に向けた新たな段階に入った。


≪筆者・冷泉彰彦氏の連載コラム「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国海洋石油の元幹部を調査、重大な規律違反疑いで当

ワールド

豪中銀、政策金利据え置き 物価上昇圧力を警戒

ワールド

パレスチナ国連加盟決議案、総会で10日採決の可能性

ワールド

米公的年金・メディケア、積立金枯渇見通し後ずれ 経
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 2

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中