最新記事

歴史問題

韓国教科書論争は終わらず

教科書国定化論争で表面化した韓国の深刻な分断。歴史問題を利用する朴大統領ら政治家たちの思惑とは

2015年11月24日(火)14時28分
シム・ギュソク

大論争 朴正煕元大統領(中央、撮影は1973年)の評価は真っ二つに分かれる Baek, Jong-sik-WIKIMEDIA COMMONS

 韓国政府は先週、中学校と高校で使われる歴史教科書の国定化を決めた。これにより、各校が複数の検定教科書から1冊を選んでいた従来の制度は廃止され、17年3月の新学期から、国定教科書に一本化される。

 この問題をめぐっては、政治家だけでなく世論も巻き込み、文字どおり国内を二分する大論争に発展していた。韓国では来春に総選挙、17年には大統領選挙が予定されており、保守派もリベラル派もそれを大いに意識した議論を展開した。

 ただ、韓国の政治では、争点そのものよりもアイデンティティーや指導者の正統性に対する考え方が有権者の政治的態度を左右することが多い。教科書問題をめぐる議論も、詰まるところ正統性をめぐる右派と左派の対立と重なる部分が大きい。

 朝鮮王朝時代、国王の息子でもないのに国王に就いた君主の多くは、死んだ実父の地位を国王級に引き上げることで、自らの正統性を強化することに全力を注いだ。

 朝鮮史をよく調べると、この王朝時代のお決まりのパターンが、何度も繰り返されたことが分かる。現代の北朝鮮でも同じ現象が起きている。

 韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領も同じことをしようとしているようだ。朴はかねてから、父である朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の知名度と影響力を武器に、政治家として頭角を現してきたとされる。それだけに、父親に付きまとう不名誉な評価を変えたいという思いがあるようだ。

 朴正煕は18年間にわたる軍政で目覚ましい経済開発を指揮する一方、人権や政治的自由を徹底的に弾圧する独裁体制を敷いた。さらに若いとき、日本の影響下にあった満州国の士官学校に入り、実質的に日本軍の指揮下にあった満州国軍に加わるなど、韓国人として永久に消えることのない汚点を持つ人物とみられている。

 だが娘である朴槿恵は、政界入りする前の89年に受けたMBCテレビのインタビューで、61年に朴正煕が起こした軍事クーデター(516軍事政変)は、「国家を救うための革命」だったと明言。この「革命」がなければ、韓国は共産主義者の手に落ちていたと主張し、父親の「ゆがめられた歴史を正すこと」が、自分にとって最も重要な目標だと語った。歴史教科書の国定化はその大きなチャンスだ。

問われる「日帝」との関係

 この問題で、朴の最大の味方になってきたのは、与党・セヌリ党の金武星(キム・ムソン)代表だ。金の父親も日本占領下の韓国で、やり手のビジネスマンとして財を成すとともに、日本軍の下で太平洋戦争に協力するよう韓国の若者に強く促した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米下院共和党、気候変動対策費を大幅削減へ トランプ

ワールド

スターマー英首相私邸で不審火、建物一部損傷 ロンド

ビジネス

午前の日経平均は続伸、3万8000円回復 米中摩擦

ワールド

新ローマ教皇がゼレンスキー氏と電話、外国首脳と初対
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 3
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 4
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 5
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 8
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 9
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 10
    ハーネスがお尻に...ジップラインで思い出を残そうと…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 10
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中