最新記事

米大統領選

ヒラリーと民主党を救った社会主義者サンダース

大統領選候補の公開討論会で見えた民主党の新しいリベラル路線

2015年10月27日(火)16時00分
ミシェル・ゴールドバーグ

思わぬ伏兵 サンダースは、クリントン優位で進む指名獲得レースで意外な存在感を見せつけた Joe Raedle-GETTY IMAGES

 先週行われた米民主党の大統領選予備選の候補5人による公開討論会がお決まりの泥仕合に陥らなかったのは、バーニー・サンダース上院議員の手柄だ。

 司会を務めたCNNのアンダーソン・クーパーは、「アメリカの大統領選挙で社会主義者が勝てるだろうか」とサンダースに問いただした。社会主義者を自称する最左派のサンダースは、ひるむことなく北欧式の社会民主主義を擁護した。

 これに対し、ヒラリー・クリントン前国務長官は真摯な言葉で資本主義を擁護した。「アメリカはデンマークとは違う。私はデンマークが好きだ。でも、アメリカがやるべきことは、行き過ぎた資本主義の手綱を締め、今の経済体制にみられるような格差を生まないことだ。史上最大の中流階級を築いてきたものに背を向けるのは、由々しき間違いだろう」

 ここで守勢に立たされたのは、サンダースではなく資本主義だった。その意味で、サンダースはアメリカの進歩主義を大きく前進させている。

 実際、討論会の勝者はクリントンだったが、議論はサンダースを軸に進んだ。クリントンは最初から、サンダースの支持層に訴えようと努めていた。

 進歩主義的な政策を最もうまく遂行できるのは誰かという話になると、クリントンは、「私たち候補者は目標については合意している。意見が分かれるのは手段だけだ」と言った。サンダースが国民皆保険に近い社会保障を目指していることを考えれば、驚きの発言だ。

 民主党は、社会保障制度は財政破綻の危機にあるという保守派の前提に立ってきた。しかし今回、社会保障の拡充について、クリントンは「最貧困層への支援を増やしたい」と語った。
不法移民に対しても州内居住者と同じように大学の学費を優遇している州については、クリントンは次のように述べている。「そうした州を支持し、より多くの州が同じ対応をするように奨励していきたい」

個人攻撃を封印した一言

 銃問題でもクリントンは左派を意識し、サンダースが規制強化に反対してきたと批判した。「国を挙げて全米ライフル協会(NRA)に立ち向かうべきだ」

 討論会には、ベトナム戦争で従軍経験があり、レーガン政権で海軍長官を務めたジム・ウェッブ元上院議員もいた。8年前はオバマの副大統領候補として有力視された彼が、場違いな過去の亡霊に見えたことは、民主党が中道路線にこだわるのをやめて、堂々とリベラルを主張しつつあることを物語る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

UAE、イスラエル・イラン紛争巡り「無計画で無謀な

ワールド

トランプ氏、イラン核兵器保有「かなり近い」 国家情

ワールド

メキシコ大統領、トランプ氏と電話会談 懸案の合意に

ビジネス

米国株式市場=反落、中東情勢巡る懸念で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火...世界遺産の火山がもたらした被害は?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中